#296 赤毛のガルス
その少年はどう見ても生徒たちと同じ制服ではなく、私服だった。レフィは彼をじとーっとした目でしばらく見ていたが、こちらに視線を向けながら首を傾げた。俺が首を振るとお互いにこの男の子を知らないことを理解した彼女は彼の視線にまでしゃがんで近づいた。
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俺とレフィは互いに相手の顔を見合わせた。そういえば、クラディアの言っていたことが正しければここはデュインという場所なのだ。ユエスレオネやスキュリオーティエ時代の多言語状況を思えば、ここにもリパライン語以外の言葉を話す人々が居るはずだ。しかも、初等教育以前の子供なら殆どリパライン語を話せなくてもおかしくはない。
適切なところに任せるべきだろう。そう思った瞬間、レフィはびくびくしている男の子に視線を戻した。
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レフィはしゃがんだ姿勢から飛びつくように顔を近づけてきた。本当に元気な娘だ、と辟易しているうちに彼女が今までにない真面目な顔をしているのに気づいた。それは恐れや挑みのような能動的なものではなく、何か義務的なものに惹かれたような表情だった。その表情には何か吸い込まれるような魅力があった。蒼い目が意思を曲げない力強さを表している。
だが、そんな魅力に単純に折れたくないとも思った。
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"......"
目を逸らす彼女の仕草はその理由を言いたくないと言外に述べていた。目は口ほどにものを言うとはこういうことなのだろう。
俺を腕を組んで、男の子の方へと視線を移した。髪は赤毛で、瞳の色は黒、ここだけを見るとPMCFに多く居たラネーメ人の容姿に似ているが彼らの中には赤毛は居なかったはずだ。レフィの言っていた"
男の子は俺達の会話を心配そうな顔で静観していた。この子くらいの年齢だと親と離れ離れになっただけで相当な絶望感を味わうことになる。それを差し置いて、変な方向へと話を進めている自分が何だか奇妙なことをしているのではないかと思えてきた。
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俺はレフィと同じように男の子と視線を合わせた。
まず自分とレフィを交互に指し示す。それだけでは男の子は何のことだか理解できない様子でこわばった表情になるが、今度は同じ動作を繰り返しながら言葉を加えた。
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こくこくとガルスは首を縦に振る。相手の意図を理解して言葉が通じた瞬間、彼の顔のこわばりは解けていた。
そんな様子を見ていたレフィは感服したように息を漏らした。
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適当に返しながら、立ち上がる。カリアホの時もそうだったが、言葉が通じない苦労は誰よりも分かっているつもりだ。
それはそうとして……レフィは探すところの目当ては付いているのだろうか?
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レフィが問いかける。しかし、ガルスはリパライン語が分からないのか、ただただ苦い顔をして首を傾げるだけだった。彼は彼の言葉が通じないのだと分かっている。それが精一杯の意思疎通なのだろう。それ以上を求めることは出来なかった。
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ガルスが難しい質問に答えられない以上はとりあえず学園内を歩き回る他に方法はない。レフィは俺の同意を聞くと立ち上がって、第一訓練所の空しく開いた出入り口に顔を向けた。
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