#111 弾帯


――出陣式 三時間前


「よし、あるな。」


 翠はレトラの図書館で、手に本を抱えながらヒンゲンファールがどこに居るのか探していた。図書館の中にいることは間違いないのだから、急がずに探せばいいのだろう。しかし、いかんせん状況が状況なのでできるだけ早めに見つけて目的を果たしたかった。

 手元にあることを確認した本は大体表紙に無線機器があった。大体の本に書いてある"olfylオルフュル"が無線機器のことを多分表すのだろうと理解していくつか取り出してきた。表紙の無線機器は以前フェンテショレーとの内通者であったフィシャ・レイユアフが使っていた通信機器に似たものを選んでいた。


"Salaruaおはよう, cenesti."

"Arあっ, salaruaおはようございます."


 無線機器の本があった二階を探しているうちに後ろから挨拶を掛けられて彼女を見つけることが出来た。後ろからの声に振り向いて挨拶を返す。ヒンゲンファール女史はいつも通り、本が数冊入った緑の強化プラスチック製のかごを手にかけながら、書庫整理に勤しんている様子だった。黒いロングスカート、白いシャツ。そしてその上から、ポケットの異様に多い落ち着いた緑色のエプロンをかけていた。図書館司書の制服なのか、エプロンの下の方には鷲の意匠が施されている。

 ヒンゲンファールが動くたびにじゃらじゃらと音がしたが、どうやらエプロンのポケットにはカギかなにかが入っている様子だった。


"Selene mi今日は無線 letix機器が olfyl fal欲しくて sysnul来たんです. Fi cene出来ればの co es fqa'iことですが, selene miフィシャ letix olfyl・レイユアフの zu letix持っていた edixa fixa.leijuaf機器が欲しいんです."

"Firlexなるほど, pa harmyでも何故?"


 ヒンゲンファールは不思議そうにこちらを見て言った。


"Fua fqaこれのために, esです."


 そういって、ミュロニユに渡された紙をヒンゲンファールに見せる。紙の端に書かれている手書きの数字と文字列を見て、ヒンゲンファールは怪訝な表情になった。そういえば今までシャリヤが徴用されたということは他の誰にも言っていない。ヒンゲンファールはイェスカの教会の関係者だが、シャリヤの徴用に関しては一切の情報を受けていないような印象を受けた。


"Jeska'd lertasalイェスカの教会 lkurf derokoがシャリヤを xalija'it mels兵士として elmer徴用したんです. Malそれ, Edixa skurlavenijaスクーラヴェニヤ.myloniju zuミュロニユという es lertasaler協会の関係者が, klie mal来て celesこれを letixo持たせた mi'st fqa'iんです."

"Zuつまり, selene君は…… co olfesしたいのね fqa'd skurlavenija'cそのスクーラヴェニヤさんに."


 "olfesオルフェス"は、聞いたことのない単語だが"olfyl無線機器"と関係がありそうだ。語幹"olf"は通信や電磁場のような抽象的な意味を表すとして、"-es動詞化語尾"が付いた形は「通信する」「連絡する」のような意味になるだろう。


"Jaはい, selene3つくらい mi letixあれば dqa十分です."

"Fqa'dこの krantjlvil io図書館の中に fhasfa'dなにか fqa xale morsそういったものが mol. mi tisodあると思うわ."


 ヒンゲンファールはそういって、書庫整理用のかごを床に置いた。図書館の中に無線機器なんかがあるのだろうかと思ったが、ヒンゲンファールが言うあたり信用性は高い。

 ヒンゲンファールと共に下の階に降りる。見覚えのあるカウンターや出入り口、以前数詞を教えてもらった講義室がそこにはある。しかし、ヒンゲンファールはそれらを無視するように講義室のドアの前を素通りして、その奥の暗がりにあるドアを開けようとしてノブに手を触れようとしてた。


"Aj痛っ!"


 小さくパチッと音がなってヒンゲンファール女史がドアノブから手を引っ込める。何なのかと思って、背後から手元を覗いてみると開けようと伸ばした手を痛そうにさすっていた。女史は口を尖らせて、ドアノブを忌々しげに見つめている。


(静電気かな……)


 ここは自分が開けてあげよう――と、そう思ってドアに手を伸ばそうとしたところ、横からヒンゲンファールの手によって止められてしまった。自分で開けようということなのだろうか。ヒンゲンファールはドアの横の壁によっかかりながら、おもむろにエプロンの背にある異様に大きいポケットに手を伸ばした。


(バールとか出してくるんじゃないだろうな)


 戦闘のこととなると性格が変わったように変になる非常識ワンマンアーミーであるヒンゲンファール女史であるから、エプロンのポケットの一つや二つに「名状しがたいバールのようなもの」や「部下の頭を刺しまくって返り血塗れになったドライバー」とかが入っててもおかしくない気がしないでもない。この町で結構信用度が高い人間がそんなサイコパスだったりしたら、色々と全てが心配になってくるが。


 ヒンゲンファールはゆっくりとそのポケットの中からブツを取り出そうとしていた。後ろに手を回して取ろうとしているが、なかなか重いようで慎重に取り出そうとしている様子だった。少しづつ引き上げるたびに、ポケットの中でじゃらじゃらと音が鳴っていた。


(なんだ、ただの鍵か)


 安心した――と、そう思ったのもつかの間、ヒンゲンファールは先程の慎重さが嘘だったかのように素早く背のポケットからを取り出して、弾帯を高速で銃にセットした。そのまま銃口をドアに向けた。


"Iska lut arulfao!!! jisesn zelartasti!!!"

「は?え?」


 普段では考えられない声の荒げ方をしながら、軽機関銃のトリガーを引く。ヒンゲンファール女史は笑いながら、ドアをハチの巣にしていた――と思いきやドアの方も何かと分厚いようで軽機関銃の銃弾を受けてもまだ耐えている様子だった。

 軽機関銃の射撃音はおどろおどろしいし、薬莢がこちらに吹っ飛んでくるし、こんな狭いところで一体何をやっているのか正気の沙汰とは思えなかった。翠は一旦後ろに対比して、ヒンゲンファールのトリガーハッピーが終わるまで後ろで待機していることにした。


「あのじゃらじゃら、音が鳴ってたのは鍵じゃなくて弾帯がぶつかり合う音だったのか……」


 数分後、ボロボロになって、突き飛ばされたドアを踏みつけて勝ち誇ったような表情になっていたヒンゲンファール女史を見ることが出来た。中のお目当ての無線機器は無事で安心したが、軽機関銃の轟音がもちろん周りに響いていたこともあってヒンゲンファール女史は何かあったのかと駆け付けた民兵やレシェールたちに咎められていた。

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