廿一日目

#110 見殺し


 大通りには爽やかな風が吹いていた。数分前までは空は肌を刺すような日差しだったのに対して、今では灰色の絵の具で塗りつぶしたかのような曇天になっていた。

 眼前の光景では、兵士たちが隊列を組んで行進している。街の人々は彼らの英雄としての門出を祝うように通りの脇で兵士たちを見送っていた。すすり泣く者も居れば、無言で大きな旗を振り続けている者、兵士の一人一人に何かをあげようとしている者、拍手で送る者。様々な人が兵士を見送っていた。

 翠もその中の一人としてシャリヤを見ておくべきかと思っていた。


(なかなか見つかりそうもないが。)


 大通りを通る隊列は太いものだ。レトラにこれほどの人間が居たのかと不思議に思わせるくらいに太く、大通りの向かいの側が見えないほどに詰まっている。もしシャリヤが翠と反対側に居たら会うことは難しいだろう。今になって思ったことだが、紛争を止める作戦には関係ないものの会えなかったらそれはそれで悲しいなと思っていた。


"Salaruaやあ."


 誰かが後ろから声を掛けてきたのが聞こえた。聞き覚えのある落ち着いた声に振り向くと、そこにはイェスカが居た。兵士たちのカーキ色の服装によく似た色のコートに身を包んでいた。こちらに声を掛けながらも兵士たちの行進に目を向けたままであった。

 今のところ、彼女は諸悪の根源である。状況が完全に理解できていないからこそ場当たり的な対応になっては居るものの、限られた情報の中でもイェスカは自分に対して到底選びようのない選択をさせようと迫って来た。彼女がこの街に来てから全てが変わった。


"Salarua.どうも"


 イェスカは挨拶の返事を受けて、何食わぬ顔をしながら翠の横にまで来た。彼女も同じように隊列を見送ろうという魂胆なのだろうか。

 そんなことを思っていると、イェスカは口角を上げて楽しそうな顔をしながら、こちらを覗き込むように見てきた。


"Co reto君はシャリヤを見殺し xalijaにするんだね?"

"......"


 怒りが湧き上がってくる。

 「違う」とはっきり言いたいところだが、冷静を装う。ここまで準備しておいて、作戦がイェスカ側に知られて実行不可能になったりでもすれば全ての終わりだ。怒りも恐れも、悲しみも楽しみも全てが成功するその日まで心に秘めておこう。そのあとで、彼女を一発殴っても誰も何も文句を言わないはずだ。


"Harmie coなんで君は lkurf niv何も言わない fhasfaんだい? Co nili ci彼女のことが……になったのかい?"

"niliニリ......?"

"Co ci'i君が彼女を lirf mal……して co text君は niv xaleそのような fgir. Mi選択をしないと tisod pa思っていたが."


 話が良く分からない方向に行っている気がしなくもないが、どうやらイェスカは自分がシャリヤを見殺しにしたと思っているらしい。少しくらい作戦の方向性みたいなものを言ってもいいのではないかと、そのような気分になっていた。


"Mi niv良く qune pa知らないが cene mi俺は celdin als皆を救える."

"Harmyどうやって? Edixa cene niv君は今シャリヤを co celdin救うことが xalija falできなかった no paくせに."

"Cene es e'iできますよ."


 翠が余裕そうにいうと、イェスカは怪訝な顔でこちらを見てきた。もしかしたら何か策があることが分かったのか何なのかは知らない。だが、情報が少ない状態では彼女には何もできないはずだ。


"Co xel君は liqka……を見ているよ. Cene niv一人の君 panqa'd coにはシャリヤ celdin xalijaや他の人 ad eter als皆を助けることはできない."

"Mercまあ, mi es俺は niv panqa一人じゃないですから."

"Firlexなるほど, ers vynutやるといい."


 イェスカは特に咎める様子もなく、翠から顔を背けて隊列を眺め始めた。翠にはもはや特に興味もない様子だった。

 自分も隊列を探し始めた。イェスカと話しているうちにシャリヤは目の前を通り過ぎたのかもしれないと思うと例えようのない虚しさを感じた。


(まあ、もうほぼ準備は済んでいるのだけれども。)


 翠は大通りの行進を見に来る前の出来事を鮮明に思い出していった。これからの作戦の実行に何か不足が起きていないか、確認するためでもあった。

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