#39 文字
文字、それは人間の偉大なる進化の一つである。
文字、それは言語、言葉を記録し芸術へと昇華させる第一歩。
文字、それは異世界を象徴するシンボル……
「読める……読めるぞ……。」
某空からビームを出す空中要塞を操縦する大佐さながらの感想が漏れる。
シャリヤから文字の名前を教えてもらうことに成功した。即座にラテン文字に書き写すことが出来たが、良く分からない綴りの規則も存在するようである。ただ、殆どラテン文字通り読めば読み通せるのであまり心配することもない。少し間違えたくらいでネイティブに伝わらないなんてことはないし、辞書を引き、文章を読み、言語パズルをやるのであれば多少の読みの間違いなど些細な問題にすぎない。
p, fh, f, t, c,
x, k, q, h, R,
z, m, n, r, l,
j, w, b, vh, v,
d, s, g, dz,
i, y, u, o, e, a
基本ローマ字読みすれば済む話らしいが、ラテン文字転写だけでは分からないことが色々ある。
"c"は基本的にサ行の音で"s"がザ行の音であるということだ。でも、"s"は後ろに母音が来なかったら"c"と同じ音になる。なので、"
"q"はどうやら/kw/のことらしい。"qa"という文字列があったらクヮと発音するらしい。
"R"と"r"は似た文字だが"R"が巻き舌のrらしい。英語とは違ってぶるぶる震える音だ。"r"はどうやら母音の後に来て母音を長く発音することを表すらしい。つまり、リネパーイネ語は母音の長短を区別する言語ということだ。インド先輩によると地球の西洋人は母音の長短を区別しない言語を話している場合があってその場合は日本語の音の長短の区別が難しくなるという。だがリネパーイネ語はそうではないということだ。
"j"はヤ行の音。"s"の読み方がドイツ語っぽかったのでこっちもドイツ語っぽく転写しようと思い"j"を選択した。そういえば"
"x"と"dz"は一文字でシャ行とジャ行の音を表す。"j"の転写字は、ヤ行音を表す文字に使ってしまったのでジャ行の音の転写は"dz"にすることにした。
厄介なのが"fh", "f", "vh", "v"の対応だ。
何が違うのか良く分からないが、口元をよく観察すると"f", "v"は唇に歯が触れていて、"fh", "vh"はそうではなかった。多分これだけの違いなんだろうが絶対に聞き分けられる自信が無い。とはいえ、今まで正確に音を聞き分けて覚えてきたのだから、出来るとは思うが。
母音はどうやら6種類あるらしい。この文字の書き分け方から見て上側に子音、下側に母音がまとめられていると考えると下側の6文字は全て母音だ。"a", "i", "u", "e", "o"の五つはどうやら日本語とほぼ同じらしいが、"i"と"u"の後ろに母音が来たときはそれぞれ"j","w"になるらしい。"y"についてはユみたいな発音の母音である。インド先輩が好きだったドイツ語のウー・ウムラウトやフィンランド語のyにあたる母音だと思って"y"の字を当てた。
約物も少しばかり分かったことがある。?にあたる文字がϪみたいな形の文字だが、!はそのまま反転した¡の形を使うらしい。ピリオドはそのままでデーヴァナーガリー文字の।のように特別な形にはなっていない。約物は結構地雷で、確認したい単語のアクセント部分につけるアルメニア文字の疑問符のような良く分からないものがこの言語でも出て来るかもしれない。
「ふぅ……。」
とまあ、ここまでわかったところで、シャリヤが淹れてきたお茶で一息つく。シャリヤも教えることは好きらしいが、ずっとやっているとやはり疲れるようで椅子に座りながら身体を伸ばしている。昼の光が射しこんでくる部屋の中は暑いとも寒いとも言えない良い陽気に包まれていた。落ち着いてくると眠気が出てきた。シャリヤも同じように眠そうで、うとうとしている。
文字が読めるようになれば先は明るい。もうちょっとすらすらと読むのには練習と鍛錬が必要だが、正直辞書なりを読むうちにそのうち流暢に読めるようになるはずだ。言語パズルをやっているうちにそっちの力もつくだろうし、なんといってもリネパーイネ語力の向上にもなる。
そういえば、文字の名前を訊いていなかった気がする。ついでなので聞いておくか。
"
"
なるほど、リパーシェ文字というらしい。
リネパーイネ語とリパーシェ文字となんとなく似ているのを考えるとどこかの文字を借用して使っている言語ではなさそうだ。ある程度の辞書と教典をその言語で読めて、看板や広く通じるところを見るとリネパーイネ語がこの世界で一般的な言語であることが分かってくる。
そんなことは、ともかく、部屋の陽気のせいで非常に眠い。
(もういろいろ考えるのはやめて寝るか……)
そう思ったとたんに翠は気持ちよい眠りの世界に行ってしまった。
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