#38 させたりさせなかったり


"Mal, kanti <veles>.それでは"veles"について教えてくれ"


 作業場からシャリヤとの相部屋のある建物までの距離はそこまで遠くない。歩いて數分もかからないくらいだ。レトラの街がいくら広いとはいえ、様々な生活に関わる設備や場所は密集しているらしい。レトラから一歩も外に出ることなくすべてのことを済ませられるようになっている。今まで翠が見てきたものは農場や住宅地、製菓材料店だったり食堂だが、多分娯楽に関わる場所だとか図書館のようなものもあっていいはずだ。


"Merえーっと, selene co lersse君は私の文字を mi'd lyjot tirne?学びたい……"

"Ar, ja.あ、うん"


 シャリヤが手帳とペンを持ってきて、椅子に戻ってきた。女の子なので作業の後に身だしなみに時間が掛かろうと思っていたがそれほどでもなかった。一体何をやってきたのかは詮索するまでもない。英雄色好むとはいうが、翠はどちらかというと来るべき時ラッキースケベを待つタイプである……って何の話をしているんだ。

 そんなことを考えているうちに、シャリヤは紙に単語を並べていた。それぞれ書き終わると文字が読めないことを知っているシャリヤは文字をなぞりながら読み上げてくれる。


"Xalijaシャリヤは kanti lyjot cene'c.文字を教える 翠……。

Cen veles kantio翠は文字…… lyjot'it xalija'st.シャリヤ……教えることを……

Cen celes kantio翠は文字…… lyjot'it xalija'st.シャリヤ……教えることを……"


 三つの例文が例示された。

 第一文は"cene'cセネス"が良く分からないけど、多分与格語尾"-'c"が存在するのだろう。間に挟まれた"-e-"は緩衝音で"cenesti翠よ"のときにも出てきたやつだ。つまり、文意は「シャリヤは文字を翠に教える」で大方間違ってないだろう。


 二番目と三番目の文章がやっかいだ。

 "velesヴェレス"を教えてもらおうとしたとき考えたことは"kantio教えること"が後に来る名詞を取っているということだ。しかし、今回は"-t"が付いている。文章はほぼ同じで、"velesヴェレス"と"celesセレス"が入れ替わっただけだ。「シャリヤが文字を教えることを翠は~する」という大体の文意は分かっているが、動詞の意味が今一つつかめない。

 "-o"がついて出来る動詞の「~すること」という形、つまり動名詞形を"veles"や"celes"が取るのであれば、知っている動詞の動名詞形を入れて検証してみるのもいいかもしれない。手始めに"lkurf話す"の動名詞形"lkurfoルクーフォ"から試してみるか。


"Xalija veles lkurfo?シャリヤは話すことを……する"

"Ja, mi velesうん、私は lkurfo cene'st.翠が話すことを……する"


 大体わかってきた気がする。

 多分、"velesヴェレス"は「~される」の意味を持つ動詞だ。そう解釈すれば、"Selene co veles kantio mi's lyjot'i?"は「私に文字を教えられたい?」という意味であることが分かるし、"Xalija veles lkurfo."は「シャリヤは話されている」という文になっているので"Jaはい"で返されるのも合点が付く。動詞の動名詞形を目的語にとって受動態を表すことができる。そして、目的語になった動詞の動名詞形が取る主語と目的語の格には何故かは知らないが-tが付く。


【受動動詞Veles構文】:(被動作主) veles (動名詞)(動作主)'st (動作の目的語)'it.


 なんだか煩雑に見えるが、要は英語でbe動詞+動詞の過去分詞の形で受動態を作っているのが、veles+動名詞に置き換わっただけなんだろう。されることを行う動作主とそのする目的語が取る格が特殊な形になるだけで、基本は簡単な構文だ。

 まあ、velesの用法がこれだけと決まったわけではないが……。


"Malそれじゃあ, xalija celes lkurfo?シャリヤは話すことを……する"

"Nivいいえ, xel."


 否定されたとともにシャリヤは手にペンを持たせてくる。いきなりの行動に焦りながらも、その次ペンを持った手を掴まれる。びっくりして体が硬直してしまう。女の子に手を触れられたことがないのかどうかは過去の記憶が無いから分からないが、手を掴んで引っ張られたあの時と同じくらいに緊張してしまう。シャリヤの手はこんなに柔らかく自分の手を包んでいるというのに。

 気付けば、手を掴まれてペンは紙の上を踊るように動いていた。シャリヤの字のそれとはちょっと違うが操られた結果として出てきたのはリネパーイネ語の覚えようとしていた文字そのものであった。読めない文字を書かせてどうしようというのだろう。というか"celesセレス"に関係ある事なんだろうか。


"Xalija celes kranteoシャリヤは翠が cene'st lyjot'it.文字を書くことを……する"


 今シャリヤが翠にさせた行動を日本語で表すとすると「シャリヤが翠に文字を」だ。つまり、受動態ともう一つのメジャーな態である使役態を表す動詞が"celes~させる"だったのだ。ただ、"veles"とは違い、主語に使役させる人間が来るらしい。


【受動動詞Celes構文】:(使役主) celes (動名詞)(動作主)'st (動作の目的語)'it.


 難しそうに見えるが、構造が分かれば簡単で"veles~される"と"celes~させる"には強い共通点がある。だから、シャリヤはまとめて説明しようとしたのだろう。

 と、そんなこんなで文字を勉強する前に一つ有用な動詞と構文を覚えてしまった。これで人にされたとかさせるとか言えるようになったわけだが、文字を覚えるのにはもっと時間が掛かりそうだ。だが、今日で全部の文字の基礎的発音を覚えてやる。


"Xalijaシャリヤ, mi firlexそれは分か mal selene mi velesったよだから文字を kantio lyjot'it.教えて欲しい。"

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