第二部 Cirlastan
十五日目
#65 ターフ・ヴィール・イェスカ
――カヴィーナ, ユエスレオネ人民解放戦線本部
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腕と足が縛られ、椅子に押さえつけられている男が大声で叫ぶ。部屋は全体的に暗く、配管が悪いのか水の滴る音が聞こえてくる。壁も床もコンクリートの打ちっぱなしで何処に触れても冷たかった。
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拷問官がハンマーを持って、男の目の前でちらつかせる。このハンマーは釘などを打つ反対側に釘抜きが付いている。手軽そうにくるりとハンマーの柄を回転させて釘打ちの方向を前に持ってくる。
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拷問官がハンマーを持つ手を緩めた途端に部屋のドアが開く。そこには一人の少女の姿があった。カーキ色の制服に身を包み、持った書類を拷問官の横にある机に投げ捨てるように置いた。
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その言葉を聞いた瞬間、椅子に縛られた男は目を見開いてその少女の方に顔だけでも向けようと体をひねる。男は恐怖に塗れた顔をしていた。
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少女は男が言い切る前にさっと懐から拳銃を取り出して、男を撃ってしまった。至近距離で頭を撃たれた男は椅子が貧弱なプラスチック製の量産品であった事もあり、そのまま椅子ごとバランスを崩して、頭の銃創から脳漿を噴き散らしながら、倒れてしまった。地面で生気なくびくびくと体を二、三回反射させて沈黙してしまった。
拷問官はといえば、グロデスクさに慣れていないと仕事にならないとはいえ、少女がいきなり入って来て捕虜を撃ち殺して行ったことに目を丸くするほかなかった。自分の仕事をかっさらって行ったうえに、その少女がユエスレオネの市民たちを救うこの内戦へと勤労人民を糾合した大役者であったからでなおさらである。
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テーブル上に散乱した書類はイェスカと呼ばれた少女が持ってきたものであった。たしかに傍受した情報がタイプライターで印字した字で並べられていた。聞きながら手を動かしていたのか、文章は綺麗に揃っているという印象も受けないが、十分有効な情報のように見えていた。
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あまり他人の話に興味がなさそうな彼女が興味深いというのは本当に興味深いのだと思っているのだろう。顎に手を当て、首をかしげながら何かを考えている様子だった。
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いきなりのイェスカの発言にまた目を丸くしてしまう。まあ、こんな人物と同じ町に住んでいれば命がいくつあっても足りないから、遠ざかってくれるなら悪いことはないが、思い付きが突拍子もなかった。
革命のリーダーが死ねば、我々も立場が危うくなる。そう考えると止めたほうがいいというのは明白だったが、止めるも何も気づいた時にはイェスカは室内から消えていた。
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独り言ちりながら、拷問官はテーブル脇の無線機械に手をかけた。
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