#195 再会


"Edixa miss俺らは furdzvokバス molあるよ."


 車が止まると運転席のラヴュールが振り返ってそう言った。レシェールはドアを開けてさっさと車から出ていた。風に当たると多少はそのグロッキーな表情もましになった。筋肉モリモリマッチョマンの変態には狭苦しくてしょうがなかったらしい。シャリヤはといえば、ラヴュールが肩を揺らしてもなかなか起きる様子がなかった。そんな彼女が心配で後部座席から彼女の様子を観察しながら、些細な言葉の間違いを頭の中で解決していた。

 "furdzvokフージュヴォク"のことはてっきり「バス」を表す単語だと思っていたが文脈から見てこれはおかしい。この乗用車はバスなんて大きさではないし、"furdzvok"が「バス」であると解釈した根拠は"Furdzvok mol retlaレトラにある!"の一文だけだ。その後に"Furdzvok esである?"や"Ejおい, harmoe misse'sいつ俺らは furdzvok molある?"のような用法を聞いてきたわけだが、状況から考えて"furdzvok mol"で「到着する」を表すと考えたほうが良さそうだ。となると、"furdzvok"は「到着して、着いて」を表す副詞であると考えられる。


"Salaruaおはよう...... Harmaeあなたは es co?"


 そんなことを考えているとシャリヤが寝起きのか細い声でラヴュールを見て言った。豪邸で既にラヴュールを見ていたはずだろうが、睡眠薬の影響で意識が朦朧としていたからか記憶が確かではないのだろう。


"Si es彼は lexerl.レシェール・lavyrlラヴュール zu es lexerle'dレシェールの rylun甥だよ."

"Lefjcenaviju'dレフィセナヴィユの rylun es甥だね."


 シャリヤに説明すると間髪をいれずにラヴュールが補足を入れてきた。"lefjcenavijuレフィセナヴィユ"というのは恐らくレシェールの名前のことなのだろう。何処かで聞いたことがあるような気がしたが、良く思い出せなかった。

 まだ少しふらつきの残るシャリヤをそばで見守りながら、着いた建物の中に入ってゆく。町の灰色の建物に完全に同化しているような場所の少し入り組んだ入り口から建物の中へと入ってゆく。日中なのに相変わらず薄暗い建物の中に入ってゆくとそこには四人の人間が緊張に身を包んでいるのが見えた。


"Ersシャリヤ...... Xalijaなの?"


 一番最初に翠たちの存在に気づいたのは黒髪のボブカットの少女――エレーナだった。静かさを感じさせるようないつもの表情も今は驚きに満ちていた。丸メガネを通しても瞳は純粋にこちらのことを見つめていた。ゆっくりと立ち上がり、シャリヤの方へと一歩づつ近づいてゆく。そして吸い込まれるようにしてシャリヤを抱きしめた。


"Elernastiエレーナ...... Naceごめんなさい."

"Fenxis co nacees謝る."


 二人の感動的な再会を目の当たりにしていると心が安らいだ。奥の方で"cerke将棋"を打っている二人はヒンゲンファールとフェリーサだった。フェリーサは駒を指で挟み上げたままこちらを見て喜びを顔に湛えていた。駒を適当なところに打って、飛び跳ねるように翠に近づく。


"Salaruaおかえり, xij jazgasakisti八ヶ崎さん!"

"Arあぁ, merえっと, salarただいま."

"Co君は set凄い junarle gelx mole morliul. Perne fqa'cここに座りなさい."


 ヒンゲンファールはいつの間にか、戸棚を開けて色々を取り出して翠の元へと近づいてきた。なされるがままに引っ張られて椅子に座らされる。服の二の腕のあたりが血まみれになっているのが気になったのだろう。痛みを意識化しないように服の切れ込みを覗かないようにしていたが、ヒンゲンファールはそれを割いて広げた。傷口が顕わになると思いきや、肌は血まみれにはなっているもののすっかり元通りになっていた。


(――どういうことだ?)


 刺したときの激しい痛み、血が腕を滴る不快さ、そして何と言っても服が血まみれになっているという事実から二の腕をナイフで刺したという事実は明白だ。もし刺し損ねて痛がっているだけだったとすれば、血まみれになっていることが合理的に説明できない。

 ヒンゲンファールはそれを見て特に驚いた反応はしなかった。それもまた、奇妙だった。部屋の奥の方へ行ったかと思えば濡れタオルのようなものを持ってきてくれた。傷がないからといってずっと腕を血まみれにする必然性はない。


"Senostみんな, alsasti聞いてくれ."


 ラヴュールがテーブルを叩いて注目を集める。窓際で静かに本を読んでいる人物、栗毛色の揃った短髪で眉を寄せたような半ば不機嫌のような、そうでないような感情が分らない青年――スクーラヴェニヤ・ミュロニユもその声にアンニュイな顔をゆっくりと向けた。


"Miss僕たちは korxli'a難民 cix tydiest PMCFPMCFへ行く. Miss僕たちは nienul aiaro fal finibaxli明日には. Fua laその時の lexilために, mi karxみんなには letixo alsa'st銃を持って paz'it欲しい."


 ラヴュールが指差した方にはいくつか拳銃が置いてあった。難民として出ていこうとする犯罪者をユエスレオネがみすみす逃すわけではないということなのだろう。そこで出オチになるのではなく、抗ってPMCFまで辿り着こうという計画らしい。緊張度が高まるのに対してミュロニユは本を閉じた。


"Sulaun今日は fal sysnul寝ましょう."


 ミュロニユがぼそっと言うのを聞いて、半分興奮気味になっているラヴュールは一階深呼吸をした。


"Jaそうだな."


 かくして、難民としてユエスレオネを脱出する明日に控え、翠達は早々に寝させられることになった。

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