#214 主人公的なこと
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玄関の前に現れたのはレシェールだった。目立たない作業服を着込んでいるが筋肉の主張には勝てないようだった。片手には何やら白黒印刷の紙を持っているようだった。次の瞬間にはフェリーサが喜びのあまりレシェールに抱きついていた。レシェールは苦笑いしながら、身動きが取れなくなっていた。ややあって離れると安心したようにため息を付きながら、フェリーサの頭を粗野な手で撫でた。
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本を読んでいたエレーナがレシェールの片手にある紙を指さして言う。彼は答えてから紙を広げた。ラテン文字の筆記体を酷く雑に書いたみみず字のような文字が延々と書かれていた。写真や絵も載せられていて、上の方にはリパーシェで"
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興味津々に窓際から近寄ってきたのはシャリヤだ。サファイアブルーの瞳が好奇心に燃えていたが、新聞のみみず字を見た瞬間読めないと気づいたのか残念そうに肩を落としてしまった。レシェールがそんな彼女の様子を見て笑うと、シャリヤはほっぺたを膨らませて抗議した。単純に可愛いという感想しか沸かない。
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あまりにレシェールがぼかすものだから、翠たちは全員新聞に何が書かれているのか知りたくなった。テーブルに集まって、レシェールに無言の圧力を掛ける。仕方が無さそうにため息を付いたレシェールは新聞を机に広げて、その文字を人差し指でなぞった。
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レシェールはそう言い放ってから、新聞に載せられている写真を殴りつけた。"
そんな馬鹿な想像をよそにどんよりとした空気はレシェールが帰ってきたことによって和らいだと思いきや、更にどんよりとしていた。ユエスレオネに帰ろうが、PMCFにこのまま居てもどっちみち酷い目に遭うのには変わらないということが確定してしまった。
レシェールは新聞を殴るやいなや時計を見て、慌てた表情を浮かべた。
"Xet,
そう独りごちると"
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落ち込んでいるシャリヤをフェリーサなりに励まそうとしたのだろう。翠は冗談だと思っていたが、少女たちは全員真に受けたように何かに気づいたような顔つきをしていた。確かに演説で翠は無駄な戦闘を止めさせはした。彼女らはこのPMCFでユエスレオネから来た移民たちが受けている苦境を自分に変えることが出来るという期待を持っているらしい。
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シャリヤが言うことは面白みもない反論だったと同時に事実として心に刺さった。ユエスレオネから来た難民は他にも居る。彼らに対する不当な扱い、二級市民扱いとしての適当な教育制度、全てが整わない状態で難民を受け入れたPMCFの罪は大きい。彼らが予測できず、対処できないのであれば自分たちが動く以外に現状を変える方法はなかった。
「やるしかないのか……また、主人公的なことを……」
今世紀最大に息を吸い込んで、大きな溜息をする。翠の心からの露吐はシャリヤたちには全く分らない様子だった。
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