#217 追い出し


 失意に俯きながら歩いていると、地面の舗装されていない赤土にキノコ型の影が落ちた。顔を上げるとそこには白い建物が立っていた。ユエスレオネで見た二つの建物と同じで、全体的に白く塗られている。ふと上の方を見ようとすると強い日を反射して目がちかちかした。周りの建物の雰囲気とは全く違うが、ユエスレオネで見たフィアンシャとは完全にその姿が一致していた。いつの間にか、シャリヤとエレーナはこのフィアンシャらしき建物を見つけていたらしかった。


 だが、当の二人は翠の目の前で困惑した表情になって立ち止まっていた。その視線の先にはフィアンシャの入り口が見えていた。花で作られた輪で飾られていたりするところは他のフィアンシャとはあまり変わりない。だが、無造作に置かれた靴が入り口の脇に大量にあるのが彼女らには奇妙に見えたらしい。

 そして、恐らくこの状況が意味するのはこのフィアンシャに入るには靴を脱がなければならないということだった。エレーナもシャリヤも靴を脱いで靴下だけになる。翠はそういう風習ならしょうがないと納得していたが、彼女たちはいかにもどぶに足を突っ込んでいるかのように嫌そうな顔をしていた。


"Merえっと, lecu en ja行こうか."


 エレーナは若干引き気味ながらも先に進んでいった。シャリヤは脇に置かれている大量の靴に怯えながら、周りをきょろきょろと見渡し始めた。フィアンシャの周りに生えている草が風で揺れただけで全身を驚きで震わせていた。翠には普通とは少し違うフィアンシャに見えていたが、彼女たちにはその少しの違いが不信感を植え付けていたらしかった。

 翠はシャリヤの両肩を持つ。彼女はびくりと驚いて後ろを向くが翠であったことに気づくと目を泳がせた。周りに他に人が居ないのに一体他に誰が後ろから肩を掴むのだろうか。


"Ers vynut大丈夫か, xalijastiシャリヤ?"

"Merえっと, jaうん."


 彼女の怯えていた表情も少しは緩まる。声色からは落ち着きを取り戻したということがはっきりと感じられた。先に進んでいたエレーナが少し遠くから妬いているような眼差しでこちらを見る。翠はシャリヤの手を引いてエレーナの後を追って、フィアンシャの中へと入っていった。

 フィアンシャの中はまるでお化け屋敷のようだった。壁にやけにリアルな画風の似顔絵が掛けられている。けばけばしい色の内装もところどころ剥げていて、灰色のコンクリートがむき出しになっていた。シャリヤはそんな様子を見みあげながら、怖がっているのかずっと翠の袖を掴んでいた。


"Jol fqa'd fi'anxaここのフィアンシャ es dolumiten……よね."

"Harmie co lkurf何を言っているの, xalijastiシャリヤ? Fqa esここは fi'anxaフィアンシャよ."

"<dolumitenドルミテン> es harmieって何のこと?"

"La lex es nyそれはリパラオネ教で vynut moler悪い存在の fal lipalaoneことよ. La lex retoそれは人を larta mal elm殺してアレフィスと alefise'c争うの."

"Hmmふむ."


 エレーナは瞑目して思い出すように少しづつ、ゆっくりと説明していた。彼女の説明に基づくならば、ドルミテンはリパラオネ教で神であるアレフィスと対立する存在らしい。そして、人間を殺す悪い存在であるとするならば、訳語は「悪魔」などが当てられそうだ。ただ、リパラオネ教のドルミテンと地球の宗教の「悪魔」が確実に合うかどうかはまた別の話だ。

 エレーナ自身も自分の説明に自信が無かったようで説明の最後の方は小声になっていた。シャリヤにはその説明が曖昧に思えたようで、少し不満げにしていたが口を出す様子は無い。恐らく一口で説明するには難しい存在なのだろう。


 そんなことを考えていたところ、目の前のドアがいきなり開いて何人かの銀髪蒼目の人々が押し出されるようにぞろぞろと出された。締め出された後にドアは内側に勢いよく叩きつけるように閉められた。翠には一瞬だけドアの中が明るさで満ちていたのが見えたが、すぐにその視界はドアで遮られることになった。

 人々は困惑した様子でお互い口々に何かを言い合っていた。何人かは足を絡ませて地面に転んでしまったようで、数人がその周りで手助けをしていた。閉められたドアの前に立つ男はドアを叩いて何かを抗議しているようだった。


"Jeiおい! Tvasnkerそれがリパ lipalaone'stラオネ教徒の e'it eso esやること la lexかよ!?"

"Pusnist止め la lex jaるんだ. Siss senost nivあいつら聞いてないぞ."

"Paでも......!"


 ドアを叩く男は他の銀髪蒼目の男にたしなめられ、渋々ドアから遠ざかった。

 シャリヤもエレーナも、そしてもちろん翠も目の前で起こったことが一体何だったのか全く理解が追いついていなかった。だが、翠はそこに一人困り顔で頭を掻きながら立ち尽くす筋骨隆々の男の背には見覚えがあった。


"Lexerlestiレシェール. Harmie何が is fal fqa起こったんですか?"

"N? cenesti翠か, co esこんな harmie'iところで何 fal fqaやってんだ?"

"Deliu tydiestエレーナがフィアンシャに fi'anxa'l. Edixa行かなければと elerna lkurf言っていた la lex malから――"

"Arあぁ, firlexなるほどな,"


 翠の言葉を遮り、レシェールは面倒臭そうにため息をついた。


"Lineparineこのフィアンシャ leus tvarcarではリパライン語 niv fal fqa'dで祈らない fi'anxaんだと. Edixa ete'd他の難民が korxli'a言っていた lkurf la lexんだが. Edixa miss lkurfそれに関して mels la lex mal言ったら celes ny enoここから追い出 fqa lerされた. Edixa mi lkurf俺はアイル語で fal ai'r'd話した lkurftless paんだがなあ."

"Ers flen……よ......"


 エレーナはそれ以外の言葉が出てこないというような表情になり、シャリヤは完全に絶句していた。同じリパラオネ教徒であるのに、言葉が違うだけで、そしてそれを相談するだけで信仰の場を追い出される。翠には彼らの行動が全く理解できなかった。


"Lecu tydiestこう."


 レシェールは困惑している人々を後にしてフィアンシャの出入り口を目指していた。翠たちはそれに黙ってついていくことしか出来なかった。


"Cene no io今は何も miss es niv出来ない fhasfa'i pelxだがな......"


 彼が一瞬だけ振り返ったのを翠は見逃さなかった。その視線は、自分たちではなくフィアンシャのドアの前で不満を貯めているリパラオネ人に向けられていた。

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