廾九日目

#132 熟れすぎたヴァルカーザ


―トレディーナ、ユエスレオネ共産党本部


 カリアホが失踪してから数時間が経った。状況としては最悪だ。部下たちはカリアホがどこに居るのか調べるのに翻弄されていた。結局の所、彼女の足取りは全く掴めずに部下たちの顔色は熟れすぎたヴァルカーザの実のようにどんどん悪くなっていった。だが、そんな状況も電話を受けていた部下の頓狂な声で一変してしまった。


"Lu jumili'astiユミリアさん!"

"Hamなん es stis?"


 電話を片手に部下が嬉嬉とした顔でこちらを呼んでくる。彼は走り書きの手記体のメモ用紙を見せつけてきた。青色のインクで、住所のような文字列が書かれている。見覚えがあると思ったら、最近建てられて開校されたばかりの党学校パーサシュテースニフの住所であった。わざわざ、手柄を喜ぶようにしてこちらに住所を見せつけてくるということはつまり――


"Lu kali'ahoカリアホ氏が veles jelo見つかった deaだって!?"

"Jaはい, lu galta今はガルタ氏 sesnudに保護 liaxu falされている no lyようです."


 頭の中を覆っていた霧が晴れたようにスッキリした気がした。無事で居るならばそれに越したことはないが、あの馬鹿のことだ。四之布Apartでも着た良く分からないラネーメ人の少女でも捕まえているかもしれない。ともかく、確認に人を送る必要があるだろう。行政執行部ブリュメントから人を送れば少なくともシェルケンの関係者に情報は通じないはずだ。

 電話を受けていた部下から離れて、別の人間に行政執行部への連絡を入れるように指示しようとしたところ、彼はぼそっと何かを呟いていた。


"Edixu ci彼女は mol jazgasakiヤツガザキ・.xorta'tjショウタと共に ly居たそうです."

"Hnnふむ? Jazgasakiヤツガザキ.xortaショウタ molがそこに fal fqa居たんだな?"


 八ヶ崎翔太――といえばヒンゲンファールが言っていたイェスカの死に因果関係があるとされている人物だ。運命は奇遇で、カリアホの失踪に手を焼いているうちに向こう側からやって来てくれたようだ。両方解決できるなら、それに越したことはない。

 そう思って、ユミリアはその有用な情報を得た部下を褒め称えようと再び傍に寄ったが、彼の顔は血の気が引いて、目から生気が消えていた。肩から青年らしい気の強さが消えて、非常に奇妙な顔をしていた。


"Co es大丈 farkzirvhi夫か?"

「位相空間管理系統第2221435番実体は不正なデータにアクセスしようとしました。セキュリティポリシーに基づき、自己を終了します。」

"Harmie何だって?"


 喋った言葉は理解不可能だった。完全にリパライン語ではない音、しかし昔に聞いたことのある言語――タカン語とその音は非常に似ていた。

 部下の青年は上着の前を引き裂いて、ポケットから何かを取り出す。外れたボタンが地面に散らばる。いきなりの謎の行動に周りで作業をしていた部下たちも彼を異様な目で見た。私の秘書たちや部下は、常に護身用として拳銃を上着に備え付けている。もしかしたら、八ヶ崎翔太は我々革命派とは対立する勢力としてもうすでに、政府や内閣に浸透していたのではないだろうか。シェルケンによる政府への撹乱なんてものはそもそもなく、カリアホを得た彼らは次の段階として政府の中枢である私をこの青年に殺させようとしているのではないか。

 そんな、ターフ・セレズィヤの陰謀論的映画のような思考をしているうちに目の前の青年は銃を取り出して、腕を振った。ただし、その銃口は私ではなく、彼のこめかみに当たっていた。


"Dzar何故......"


 青年は自分のことを拳銃で撃っていた。こめかみから脳漿を散らしながら、力を失った体は作業机に上半身を打ち付けてそのままするすると床へと落ちていった。周りで作業をしていた部下たちが集まって来て、これは一体どういうことだろうという顔をしてお互いを見合わせていた。

 ユミリアには大きな不安が芽生えてきた。八ヶ崎翔太という人物にはもう関わるべきではないのかもしれない。イェスカもこの青年も、彼に関わって不可解なことを言って死んでいった。全く分からない言語を話し、そして死んでゆく。八ヶ崎翔太という人間がこれを全て行っているというのであれば、彼はケートニアーの犯罪者と捉えるべきだ。だが、革命派の治世が嫌なのであれば、革命内戦を止めたはずだ。彼は、何もしなければ、関わらなければ無害だ。

 死体を見る。生気のない顔は、表情が全くなくなっていた。電話でカリアホの存在を確認した瞬間はあれほど喜んでいたというのに。

 死んだ青年の顔をじっと見ているとその目が機械的にこっちに向いたような気がした。弛んだ焦点の目をこすって、はっきりと青年の顔を見据えると血走った目がぎょろりとこちらの動きを仔細に捕らえていた。


"நீலமான பூ青い花, உயிரிழப்ப命を失った யோசனை考え, இந்தこの இடம்地は உங்களுடையあなたたちの அம்மா இல்லைではない. தேடு探せ, நாங்கள்我々は எங்கே何処に இருக்கு居る. அனைத்தும் ஐரோப்பியர்アイローッピヤルに இரு居ればいい. கண்ணை目を போற்று拝せ. சாவு滅べ. வெறுத்து見下す நோக்குளர், நீயும்あなたも நீலமான青い கண்ணும்目も அதேその சமயத்தில்時に சாவும்斃れる."


 それは声が聞こえたのではなく頭の中に直接意味が流れ込むようにして入って来た。あまりの情報量に苦しみさえ覚えたが、全部

 我々はもう既に死んでいる。青い花であるイェスカはどうしようもなかった。故に我々もどうしようもない。あるがままであるしかない。目がアイローッピヤルに付く限り、彼らも、アイローッピヤルも、青い目も、私たちも目を潰して意味を失う。

 そして、これは忘れられる。それがセキュリティポリシーに書かれている。しかし、運命は結局のところ本質も我々の歩みも誰の記憶の中にも残らないという事実でしかなかった。故に何をやっても、何をやらなくても意味はない。

 だから、あるがままであるしかない。

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