#44 芋づる式は疲れるよ!
"
レシェールは翠が開いていた辞書にある単語を指して言ったのちに、その下の語釈を指して"
"
単語を指して"
"Ers
ここまで何とか分かったが、なかなか細かい単語が分からない。考えているうちにレシェールが隣の席に座った。気になって隣を見ると、「勉強しろ」とばかりに辞書を指し示してきた。集中しているところを邪魔したくないが、勉強の様子を見て助けてあげたいという感じか。ネイティブの助けは非常に助かる。
さて、長めの単語である"
【fto.e】Ers qanteerl leus
:
例文の"
"
"
尋ねようとすると待ってましたとばかりに"
"
レシェールはそれを聞くと少し唸って考え始めた。
何というかレシェールは頼れるおじさんではあるが、外国語の先生というタイプじゃない。どちらかというと生活指導とか体育の先生といった感じで言っちゃ悪いが理性の質が悪そうというか……。
ただ、ネイティブに教えてもらえるほどいいことはない。説明力が無くても訊き出せるだけ辛抱強く聞き出そう。
"
"
"
レシェールはその質問を聞くとノートの脇にあったペンを取って、ノートに何かを描き始めた。10秒ほどで書いた絵は簡単だが分かりやすい人間の行為の姿を表していた。
(なるほど、「描く」だ。)
人が画筆を振るう姿をレシェールは書いていた。人がキャンバスに描いていたのは動物か何かであまりにシンプルに描かれていてそこまでは分からないが、とにかく絵を描く姿が描かれていたと言うことは"skurla"は「描く」という意味になる。
つまり、「Qanteは話すこと、書くこと、描くこと」ということになる。何というかいずれも何かを表すことだから"qante"の意味は「表す」ということが考えられる。
次にレシェールはその絵の下に一つの箱と多数の箱を描いた。
一つの箱の下には"
(複数形と単数形ってやつですよね……。)
あまり好ましくない兆候である。
日本語は複数であることに敏感ではない言語だ。兄弟が複数いても兄弟たちと言っても言わなくてもよい。でも、英語ならちゃんと"brothers"と言う必要がある。もし、リネパーイネ語が複数に敏感であれば少し面倒かもしれない。何せ常に複数かどうかについて気にかけていないといけないからだ。面倒くさいことこの上ない。
それはともかく、"eustira"が「複数形」であることは簡単に理解できる。そして、絵で対称に表された"
"
"あ……
考察にどっぷりハマっていた翠は集中力を完全にそっちに切っていて、怪訝な顔でのぞき込むレシェールに全く気付いていなかった。応答してレシェールは安心したのか、少しのけぞって座る。
これまで得られた情報で"meiaqerz"の語釈である"
つまり、辞書は「複数形の単語を使って表すもの」が"meiaqerz"であると言っているのだ。熟語というか句というかそういうものが"meiaqerz"なのだろう。
"Ers
(それにしても疲れた……。)
やっと色々調べて単語の意味とかを理解したが、やはり初学者だから芋づる式に単語を引くことになる。これを調べたら、また次の分からない単語を調べてとやっていくともともと引いていた単語が何なのか分からなくなってくるし、覚えたまま探すのも疲れてしまう。インド先輩くらいなら何も問題なくささっとやるんだろうか。もしかして、そのやり方が悪いとか……。
言語パズルなどやり始めたらどうということでもないだろうと高をくくっていたら非常に疲れてしまった。だが、ここで終えるわけにはいかない。今日はこの図書館に引きこもって色々やっていこうと決めたのだし、"levip"の語釈の分からないところを理解できるようになるまでは絶対にあきらめたくはない。
長めの単語の意味が分かったところで小さい単語について考えてみるとしよう。未だ予想の域を出ないが、"ol"は接続詞、"et"は名詞で、"ers"は辞書だけに出て来る定型句や省略のようなものだろうと思った。雰囲気だけの予想だが、大体こういうのがあたっている場合が良くある。
(外れている場合も良くあるけどな……。)
そんなこんなでまず最初に出て来る"ers"を引こうと思い、翠はEの文字を辞書の端から探し出し開いた。
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