#260 Xorln es niv xorlnem!
シャリヤと分かれ部屋に残されてしまった後はベッドに身を投げたまま天井を眺めていた。彼女が質問への回答をごまかした理由は詮索しないほうがいいのだろう。シャリヤに嫌な思いをさせたくはない。
これまで生活を安定させるのに忙しかったが、今は久しぶりの空き時間が出来ていた。こういう機会に夕張の行方を捜さずに何時探すのだろう。そうはいってもこれまで手がかりというものの一つもない。まずはユフィアや市場辺りから近辺の情勢を聞き入れるのが筋だろう。そのためには通訳役のインリニアを連れていかねばならない。
そこまで考えてベッドから起き上がる。頭から血の気が失われる気がしてふらふらしていた。いつの間に貧血気味になったのだろうか。視界の端が灰色になり、気分が悪くなってくる。
毎日三食とは言わないが、十分な量の食事は取っていたはず。今日だって朝飯は着替えの直後に取っていた。栄養の偏りがあったのかもしれないが、今の自分の立場ではどうしようもない。
頭を抑えながら、木の柱に手をついて息を整える。数回の深呼吸で気分は大分良くなった。柱に頭を打ち付け気分を入れ替える。早くこの時代から抜け出さねばならない。そうでなければ、自分だけでなくシャリヤとインリニアの健康まで損なわれることになるだろう。我々の危険が危ない。
部屋を出て、インリニアを探しながら気になったことがある。「危険が危ない」は少し異なるが、「歌を歌う」などの同族目的語のことだ。同族目的語は動詞と同根の目的語のことで多くの言語に通言語的に存在している。例えばタミル語の"
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考え事で前が見えなくなっていたところ、いきなり話しかけられた。声が聞こえた方向に顔を上げるとオブシディアンブラックの瞳がこちらを見つめていた。どうやら彼女も手持ち無沙汰だったようでこの辺りを散歩していたようだ。
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神妙なおもむきでインリニアは目をそらしていた。他人が仕事で忙しいのと詩を教えてもらったのと、どちらを素晴らしいと感じたのかは分からないがその表情からは何かを疑問に感じているのが見て取れた。
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自分の耳を疑ってしまった。まさか、彼女がそこまで酷いことを言うとは考えていなかったからだ。
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訊く口調はついつい強くなってしまう。いくらシャリヤをよく思っていないとしても言っても良いことと悪いことがあるだろう。彼女が悪びれることもなく、当然とでも言わんばかりの表情はさらなる怒りを煽った。
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インリニアは段々と苛立たしげな表情になっていった。こちらこそ頭に血が上ってきた。のらりくらりと自分の発言をごまかす彼女の話し方には誠実さが感じられない。素直に自分の非を認めて謝れば良いものをと思って睨みつけるとインリニアも睨み返してきた。
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第三者の声が聞こえた。その方へと視線を移すと驚いた様子でこちらを見ている。煌めく銀髪と蒼い目の持ち主、そして現代リパライン語を話すのはこの世界にもうひとりしか居ない。シャリヤだった。
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シャリヤの制止に二人揃って瞬きする。彼女の次に続く言葉を待っていた。
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少し良い間違えてしまったが、"xorln"も"xorlnem"も大して意味が変わらないだろう。PMCFに居たときにフェリーサに掛けられた褒め言葉が"xorln"だったからだ。だが、シャリヤはそこで一つため息を付いた。
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「えーっと……」
シャリヤと一緒に咎めようとしていたところが、何故か指摘の矛先は自分の方へと向かっていた。インリニアのほらみろという視線が突き刺さり、応答として出てきたのは日本語になってしまっていた。
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