#259 八ヶ崎翠は吟遊詩人ではない
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続くシャリヤの説明にとりあえず黙って首を縦に振った。
新しい単語が幾つか出てきている。"
シャリヤは言葉を続ける。
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slommirca slorgerda roftesk la
klantez
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シャリヤは語尾をわざと強く発音していた。形態素は違えど、すべての文末は[
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これもよく見れば脚韻だ。しかし、フィンランドの神話的叙事詩であるカレワラの韻律などに良く用いられる頭韻を聞いた時、彼女たちはそれを"virlarteust"として捉えるのだろうか。もし、そうでなければ"virlarteust"は「押韻」ではなく「脚韻」のことを表していると理解したほうが良さそうだ。
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頭韻を確かめるために出した例文は非文では無いにしても意味不明なものだった。八ヶ崎翠は吟遊詩人ではない。仕組みを確かめるために一つ綺麗な詩句を詠めと言われれば困ってしまうというものだ。
シャリヤは一瞬良く分からないというような顔をしていたが、そんな意図を読み取ったかのように頷いて見せた。
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シャリヤは自分に問い直すようにゆっくりと答えていた。恐らくネイティブでもややこしいところなのだろう。整理すると"virlarteust"は「韻を踏むこと、押韻」を表す単語だ。それぞれの押韻法("virlarteustel"は"
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シャリヤの心配そうな顔がこちらを覗き込んでいた。さらりと落ちた美しい銀髪が手元に触れる。どうやら長い間考え込んでいたらしい。筋道立てて考えようとするといつもこうである。
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シャリヤはきょとんとした顔でこちらを見つめる。
疑問は至って単純明快なものだった。
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答えようとしたシャリヤは何を言えばいいのか分からないという顔で戸惑っていた。
なにか訊いてはいけないことを訊いてしまったのだろうか。"fenxe baneart"の悪夢が脳裏に蘇る。だが、言ったことは取り消せなかった。お互いが沈黙の中、居心地の悪い空気がしばらく流れ続けた。そんな状況を断ち切ったのはシャリヤだった。
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シャリヤはそろーっとこちらに視線を向けた。瞳は「察して、送り出してくれ」と言わんばかりに答えを待っていた。
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そういってシャリヤはそそくさと部屋から出ていってしまった。淀んだ空気は翠に疑問を投げかけていた。一体、シャリヤと詩の知識にどの様な関係があるのか。変にごまかされたせいで知りたい気持ちは募るばかりだった。
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