#113 捜索
結局のところ、出陣式でシャリヤを見つけることは出来なかった。隊列は過ぎ去り、音楽団、合唱団が兵士たちの後ろに続いたところで見る必要性を感じなくなってその場を去っていた。イェスカは去る翠に対して何にも言うことはなかった。
家に帰り、リビングのテーブルに書類を広げる。
窓から伸ばした大きいアンテナがケーブルを通してリビングのテーブルに置いてある無線機と繋がっていた。スクーラヴェニヤから手に入れたフェンテショレーの周波数帯、文章を探して大体の予測がついたイェスカたちが利用する周波数帯、情報は揃いつつあったがただ一つ重要な情報が抜け落ちていた。シャリヤが参加している部隊の作戦開始時刻が分からないということだ。こればかりは、部隊使う周波数を突き止めてしまう以外にやり方はない。しかし、一人であれもこれもやっていれば、事故に繋がる。一人で出来なければ、多人数で役目をしっかりと割り振り、活用する。
そのために信用できるメンバー二人に集まってもらった。
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既に家の中で待機してもらっていた二人――エレーナとレシェールが答える。二人とは事前に作戦を共有している。翠の目的を理解して、信用できるイェスカ関係者でない知り合いといえば、この二人くらいしか居なかった。しかし、二人とも翠の目的に快く賛同してくれた。かかる危険性に関してもシャリヤの死の可能性の前では小さいものだと言ってくれた。そうしてここに集まっている。
エレーナは右手で前髪を弄りながら、心配そうにこっちを見ている。レシェールはというと待ちくたびれたとばかりにあくびをしていた。
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エレーナに向けてテーブルの上にあった無線機のヘッドセットを持ち上げて、見せる。彼女はそれを認めて頷いた。
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エレーナに説明している途中で、レシェールが口をはさんできた。自分が何をやるべきかさっぱり分かっていない様子だった。大丈夫、絶対に機械の操作なんてさせないから安心してくれ。
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動詞が良く分からなかったが、頷いておくとレシェールは"
翠の演説が始まった時点でイェスカの側には誰が何をしているのかが速攻で伝わるはずだ。翠の家の位置を知っているイェスカは手を出そうと思えば、すぐに通信機を破壊するなり妨害が可能なはずだ。外部に誰かを配置して守りを固めることも重要だと思い、レシェールを呼んだ。
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テーブルの上に拳銃を置く。レシェールはどこぞの司書さんとは違って小銃などを常に持っているわけではないだろうから貸し与えることにしていた。もし、イェスカが自分を襲撃させようと思うのならば銃でも何でも使うだろう。対抗できなければ、この作戦は失敗に終わる。
"......"
レシェールは黙って拳銃を受け取り、無造作にポケットの中に突っ込んだ。
レシェールには家の玄関の入り口付近で見張りを行うことを説明し、エレーナには無線機の基本的な使い方を教えた。そうして、エレーナはイェスカ側、翠は異教徒側が使っている周波数の特定を始めた。
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特定を始めた直後、エレーナは不思議そうに低い声で無線機に向けてそうつぶやいた。何かを見つけたのか、不安そうな顔をしてこちらにヘッドセットを渡す。翠はそのヘットセットを付けると頻繁に通信をする音を聞くことが出来た。
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エレーナの顔は恐怖に塗れていた。軍事とは全く関係のなかった友達が戦場に送られて兵隊をさせられているのだ。自分だって怖い。彼女の死、そしてここに居る人間に悲劇を繰り返させないことがこの作戦の重要な目的だ。
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そういって、翠は無線子機を片手にとった。
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