#253 抽象概念を説明するのは往々にして難しい
突然馬車が止まった。車窓から見える風景に目を向けるもぬかるみや越えづらそうな道は見えない。天候は曇りっぽいが雨が降っているという様子でもない。目の前に座るシャリヤも車窓に顔を近づけていた。俺の頬に自分の頬を合わせるような仕草がいかにも可愛らしい。
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インリニアがあまり意味の取れなかったシャリヤの疑問に答える。オブシディアンブラックの瞳はそのまま車外へと向かった。背筋を伸ばした馭者がこちらに歩いてくるのが見える。馭者は一礼してから、馬車のドアを開けた。
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なにやら馭者の話を聞いたインリニアは納得していた。
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そういって、インリニアは一足先にと馬車から飛び出した。おそらく、"
インリニアは窮屈だったのか背を伸ばしてすっきりした様子だ。シャリヤも段差を踏み外しそうになりながらも馬車から降りていった。馬車といえばかぼちゃの馬車が脳裏に浮かぶ。彼女がシンデレラのようなドレスを着たなら眩しすぎて直視はできないだろう。しかし、この場合意地悪な継母と姉は一体誰になるのだろう? 前者はヒンゲンファール女史か? 王子が八ヶ崎翠だとしても勝てる気がしない。では、この無理ゲーに勝利をもたらす魔女は一体――
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心配そうに見上げてきたシャリヤの顔を見て、馬鹿馬鹿しい想像をかぼちゃの馬車と一緒に脳裏に追い出す。"
鬱蒼と広がる森の中で、俺達三人は馬車から離れないように気をつけて近くの倒木に座り込むことにした。休憩とは言っても新しい空気を吸うくらいのことで、段々と退屈になってきた。
馭者がロープを束ねながらこちらにやってくるのが見える。馬を木にでも縛り付けたのだろうか。インリニアが馭者と俺を交互に見やった。なんだろう、同時翻訳でもしてくれるのだろうか?
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こともなく同時翻訳をしながら、会話をこなす。インリニアの姿は途中まではそのように見えていたが、会話の合間での息遣いには疲労が見えていた。フェリーサもそうだったが、同時通訳には多大なる疲労が伴う。プロでさえ標準的な交代時間は15分と言われているのに素人が継続的に訳文を提供するなんて夢のまた夢だ。
馭者は近くの山の洞穴のようなところを指していた。煤けたような色合いの山肌は整備されていない自然の風格をまざまざと見せつけてきている。話が分からないながらに俺はその洞穴に目を向けていた。
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シャリヤは不思議そうに首を傾げた。詳しく説明しようとフィラーが口から漏れた。
同時通訳は同時通訳でも、相変わらず訳される言語はリパライン語だ。もはや馴染みすぎてしまって忘れがちだがここは異世界なのだから、日本語での通訳など望むべくもない。その上で現地語力がないと来た。"
あれ? これ普通にリパライン語で尋ねられるじゃ……?
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現地語力が無いというのは何だったのだろう。普通に訊くことができたがシャリヤは逆に説明に悩んでいた。
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シャリヤは静かに頬を押さえながら考えていた。
おそらく、"
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馭者の呼びかけが聞こえた。インリニアは疲れた様子で同時翻訳はしてくれなかった。彼女の後について馬車に戻ると馭者は乗り込んだことを確認してから馬を繋いで走らせはじめたのであった。
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