Epilogue "Akrunfter"

#349 方向転換


 結果的な話をすると、フィレナと面談をすることは叶わなかった。谷山が調整をミスしたわけではない。彼はちゃんと出発予定日の直前までに面会を調整してくれた。しかし、外務省の都合で、調査員としての赴任が前倒しになったせいで、あのXelkenの娘とは会えずじまいになってしまったのだった。


「はあ……」


 目の前には、スーツ姿の人間たちが出発を待っていた。ある者は携帯で何者かに連絡を取っており、ある者は忙しそうに手元の書類を確認していた。

 外務省とユエスレオネ連邦が外交関係に至ってから、日本には連邦の支援によってある施設が建てられた。簡単に言うと地球とファイクレオネとの間を行き来するための機材が配置されている場所だ。リパライン語では "werlfurpu'dウェールフープの dojiejドイエイ" というらしい。辞書と睨み合って "dojiejドイエイ" は「空港」を表すことが分かったが、「ウェールフープ空港」といっても誰も理解するはずもない。訳を求められて出てきたのは「魔法旅港」という冗談のような文字列だった。ゆえに、今俺がいるこの施設の名前は「東京魔港」と呼ばれている。

 外務省のエリートが真顔でこの言葉を言っているのを聞くと、吹き出しそうになるものだった。


"Nienulerssesti ……の042に late'd 042'ct搭乗される方々, wioll miss plasiこれよりご搭乗の nienulelご案内を ......"


 ノイズ混じりの音声に顔を上げる。

 ここはユエスレオネ連邦からの外交官なども使うため、リパライン語でのアナウンスが流れてくる。先に流れてくるものだから、日本の外交官たちには不評みたいだ。しかし、大体理解できる俺にとっては何の問題も無かった。

 ゲート前のベンチから多くの人影が立ち上がった。042ユド・アニュプクワ・クワ便――ユエスレオネ連邦・リーネヴェキーネ行き――俺が乗る予定の便だった。


"Miss fonti'a deiet……を……します! Cuturl co'd deietお手持ちの……を出して下さい! 切符をしゅっしてしたさい!」


 ゲート前に並び始めた銀髪の――恐らくリパラオネ人だろう――旅港スタッフが大声で呼び掛ける。日本語が大分怪しいが、おそらく搭乗券を出せということなのだろう。リパライン語の "deietデイェト" は切符、或いは搭乗券や乗車券のことだろう。

 奇妙な日本語は「しゅっしてしたさい」と言うことだろうか。あちらもあちらで日本語が使える職員を育成するのに難儀しているところがよく分かる。

 そんなことを思いながら列に並ぶ、順番が近づいてくるのに連れてため息がこみ上げてきた。


"Cuturl pla出して下さ...... あ、ごめなさい! 切符を――」

"Mi firlex 言ってること co lkurferlわかりますよ."


 そう言って、搭乗券と日本政府から頒布された両国渡航限定のパスポートを渡す。

 職員は、俺がリパライン語を話したことに驚いて目を見開いた。困ったふうに頬を掻いてから、彼は "joppえっと...... xace fua lusoご利用ありがとうございます" と言って搭乗券を返した。


"Coあなたは...... es nihoner ja日本人ですよね?"

"Jaそうですけど?"

"Harmue coどこでリパライン語 lersse lineparineを学んだんですか?"

"Loler liestuそれを話す voles fua lkurfには長い時間がerl la lex要りますね."


 俺は顎で後ろの方を指す。職員は列が詰まっているのに気付いたのか、会釈をして先を通してくれた。


* * *


 ウェールフープで移動するといっても、途中までは航空機と同じ仕組みらしい。飛び立ってから、ウェールフープによってファイクレオネに移動し、そして規定の空港に着陸ということのようだ。

 静かに響くエンジンの低音を聞きながら、俺はこれからの道のりを思い浮かべていた。


 正確な場所が分からなかったとしても、シャリヤが連れて行かれたと思われる場所は大体検討がついている。ただ、浅上が言っていた通り、彼の「設定」と今現実のユエスレオネの歴史は変わっている可能性がある。デュインに居ない可能性も十分ありえる。しかし、結局のところ今回の東京襲撃に関わった勢力は大体割れている。異世界にまで来てXelkenを討伐したユエスレオネ連邦側も過激派の場所をある程度まで絞っているはずだ。


 むしろ有利な展開だとも言える。フィレナからシャリヤの詳細な場所を聞き出したとして、ユエスレオネに行けず外務省研修所に縛り付けられていたら、どうしようもないのだ。在外公館専門調査員はそれなりに自由に行動が出来るらしい。シャリヤの居場所を探り出し、再会する望みはこっちのほうが高いのかもしれない。


"Excuse me sirお客様?"


 いきなり英語で話しかけられ、そちら側に顔を向ける。銀髪碧眼のフライトアテンダントがこちらを覗き込んでいた。ワゴンを引いているあたり、食事を運んでいるのだろう。


"We are to bringお食事の your meal.ご提供を Which would you likeさせて頂いているのですが......"

"Cene mi text fhasfa何か選べる faller knloanerlんですか?"

"Arえーっと...... Jaはい, cene co text faller鹿と……から選 rypis ol nefrypisんで頂けます."

"Icve nefrypis plax……を下さい."


 機内食に鹿とは珍しいなと思ったが、口に合わない物を食べてもしょうがないので "nefrypisネフリュピス" とやらを頼んでみた。まあこちらが口に合うとは限らないが。

 渡された湯気の上がる弁当箱を開け、空を眺めながら内容を食す。淡白な魚の入った弁当だった。


(シャリヤ……ちゃんと食っていけているんだろうか)


 きっと彼女のことだ。周りが過激派に囲まれてもなお、しっかりと生きていっているはずだ。

 そう信じながら、俺はユエスレオネへの到着に思いを馳せるのだった。


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