#271 糧食
CSTOの車両にはどうやら幾つかのレーションが載せられていたらしい。翔太はどうやら最初からこの車両にあったことを知っていたようだ。
レーションボックスの横には
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奇妙なビニール袋をつまみ上げて、インリニアはそれを奇妙そうに見ていた。まあ、確かにこういった食事に慣れている方が少ないだろう。一方の翔太は相変わらずの仏頂面でパッケージのキリル文字に目を凝らしていた。口元が微かに動いている。彼はキリル文字のその言葉を黙読しているらしかった。
「読めるんですか?」
「牛肉のラグーのじゃがいも添え、だとさ。良いもん食ってるんだな緊急展開軍は」
「はあ……」
一方でクラディアはビニール袋からカイロのような物を取り出して、その「牛肉のラグーのじゃがいも添え」のパッケージと共にビニール袋に入れ、袋の中に少量の水を加えた。
同じリパラオネ人が何をやっているのかよく分からない様子のインリニアは怪訝そうにその作業を見つめていた。その視線に気づいたのか、クラディアは彼女の方へと顔を向けた。
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インリニアが不思議そうに袋を見つめていると、袋はホットプレートに水を掛けたときのような奇妙な音を立て始めた。すぐにその側面に水滴が付き始める。袋の口からは蒸気が吹き出し始めた。インリニアは驚いた様子で俺の方に飛び退いてきた。避けかけたが、そのまま転ばせてしまうのも可哀想なので体を受け止める。
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クラディアはインリニアの驚きに静かに答えていた。オブシディアンブラックの瞳は興味深そうに袋の中身を見続けていた。
そんな二人のやり取りを見ていると、自然に頬が緩む。そこへ微笑ましげな光景を中断するようにドライフルーツバーが目の前に差し出された。
「一人前の分はしっかりと食べておけ、呆けてる暇は無いぞ」
「……そっちはどうなんです? それ、食べないんですか」
「基地に潜入中に眠気で集中力を切らしたら困るからな、あまり食べない。それにFRHがあるにしても、加熱が不十分だったら無意識にウェールフープで火を付けかねない。今から体力を消費したくはないだろ」
それはつまり、俺のことを戦力として見做していないということだろうか? もしそうなら、少しカチンとくるものがある。ケートニアーなら、チートを持っていることを理解した今なら普通の地球人とやりあって負ける気はしない。これまで何回死線をくぐり抜けてきたことか、翔太は知るまい。
「俺だって、戦力になりますよ」
「やめておけ、なんだかんだ言って相手はプロなんだぞ」
「チート能力もない奴らに何が出来るんですか。俺は撃たれても、ある程度は動けたんですよ」
「おい、良いか?」
翔太は苛立たしげに眉間を寄せた。
「ウェールフープはチートじゃない。ケートニアーでも頭を撃たれたら死ぬし、手足が吹き飛べば動けなくなる。世界を改造して生まれるチートとは別物で死は誰にでも平等に存在しているんだぞ。足手まといにでもなりたいのか」
「それは……」
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答えに困っているとインリニアが何やら騒いでいるのが耳に入った。見てないうちに彼女の手元には先程の牛肉のラグーのじゃがいも添えのパッケージがあった。切られたパッケージの口からは湯気が上がっている。じっとその袋を見ているとインリニアはパッケージを胸に引き寄せた。
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状況的には「あげないよ」というところだろうか。
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俺がそういうとインリニアは眉をひそめて怪しげにこちらを見ていた。いくらなんでも疑いすぎだ。だが、彼女の無邪気さに元気づけられた気がする。そうだ、今は活躍するだとかしないだとか以前に邪魔者を遠ざけて、シャリヤを救うことが優先事項だ。それを支援してくれる翔太の足を引っ張るのは得策ではない。
「クラディア、ある程度食料をまとめてヴェフィス人に持たせておいてくれ」
「分かりました」
翔太に呼びかけられたクラディアは開けられていない食料をリュックサックのようなものにまとめ始める。翔太は視線に反応するようにしてこちらに向き直った。
「夕張の居る世界に行ったとして、食料がすぐに調達できるとは限らない。ある程度は非常用に見積もるべきだろう」
「まあ、粗末な食事には慣れてますから安心して下さい。ウォッカも入れておきますかね」
見つけた瓶を掲げて言ってみる。冗談めかして言ったつもりが翔太はなにか考え込むようにじっとその瓶を見つめていた。
「確かに消毒程度には使えるかもしれないな」
「しょ、消毒……?」
翔太の肯定的な発言を聞いたクラディアは俺が掲げていた瓶をリュックサックに合わせて詰めてしまった。
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