#173 神は「自存」という意味である
両手に強く鞘を握る。目の前に居る存在がただの政治家だと脳内で解決することは出来なかった。この状況で平常さを保っているほうがおかしいだろう。
目の前に迫ったユミリアが自分の胸に左手にある拳銃を突きつけようとする。その一撃を反らすように刀身で銃を打った。反れた銃口から出た弾が背後の壁にめり込む音が聞こえた。銃を撃った隙に出来た疎に刀を振るう。
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ユミリアも振るわれる刀をただただ見ているだけでは無かった。武器を持っていたのは片手では無かったようで、右手にあった釘抜き付きのハンマーで右側に打ち返した。打ち返されて体勢を崩したインリニアにユミリアは勢いを生かして釘抜き側を振り上げていた。
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狂気に満ちたような笑顔で振り下ろされる釘抜きをすんでのところで斬り上げるように刀で受ける。レールと車輪が重なるかのように刀に沿って釘抜きは落ちてゆく。接触部分で火花を散らして、不快な高音を鳴らした。
振り下ろした釘抜きと共に上半身を屈ませたユミリアの背中にまた隙が見えた。そこに向かって刀を振り下ろそうとした瞬間、脇腹に火箸を差し込まれたかのような感触が走った。
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屈んだままのユミリアの左手にある拳銃は私の腹を指していた。
崩れた体勢のまま、体に力が入らなくなる。そのまま灰色の床に転がってしまった。脇腹を撃たれただけならまだケートニアーの治癒能力が頼れる。それまでユミリアの攻撃を避ける防御に徹する戦略に移ろう。
そう考えて刀を床に突き立てて立とうとした。しかし、顔を上げた瞬間、その目の前には銃口があった。しかし、ユミリアは引き金を引こうとはしなかった。
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ユミリアは銃口を私に向けたまま、勝ち誇って見下げるような表情でこちらを見ていた。
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左手のハンマーをポケットにしまいながら、その手で同じポケットから注射器を取り出す。先の部分のキャップがピンク色のプレフィルドシリンジ、自分が射っていたものと同じようなものであった。ユミリアはそれをインリニアの前に落とした。
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いきなり意味の分からないことを言い始めたと思った。ユミリアは私の問を聞いてやっと理解出来たかのような顔をしていた。
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インリニアは刀をゆっくりとしまい、注射器を拾った。この状況では、どっちみち勝利は望めない。どっちみち死ぬのであれば、敵の罠であれ自分から死を選んだほうが潔いに決まっている。叙事詩時代のヴェフィス人もそうだった。
キャップを外して、注射針を二の腕に刺す。ブランジャーロッドを押し込んで、薬液を体内に送り込むとすぐに体が反応していた。ユミリアは興味深そうにその様子を見ながらにやけていた。戦闘狂のような振る舞いに少し恐怖感を感じた。よく考えれば政府軍で教わったいずれの戦闘術にもユミリアの動きは似合わないのだ。そもそも無駄が多過ぎる、だがその無駄を補完し、戦闘術の動きを上回るだけの体力、体幹の強さがあった。
勿論全てウェールフープ可能化剤によるものであろう。
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薬剤が体に回るのは早かった。政府軍が投与したそれよりも、回りが早くそして性能も良い。ケートニアーの特異な回復は脇腹の傷を完全に癒していた。
移動も感覚も完全に何段階もレベルが上がっていた。ユミリアの気分が高揚するのも分からなくは無かったが現状はお互いに殺し合いを行っている状態であった。お互いが打っている薬剤は同じものであり、この状態では互角であろう。
拳銃とハンマー、それに対する刀の応酬は何回も続いていた。途切れない緊張、それについて行くウェールフープ可能化剤による能力向上は延々と膠着した状態を続けていた。
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後ろから声と銃声が聞こえた。後ろから制服姿の特別警察共が追いかけていた。幾つもの銃弾が自分に近づいてくるのがコマ送りのように遅く見える。ユミリアとの戦闘の中では弾くのがやっとの状態であった。
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ユミリアの攻撃は熾烈さを増していた。これ以上の長い戦闘は能力向上を得たインリニアでも慣れていないうちにミスを起こすであろうことは大体分かっていた。だからこそ、実現できるか分からなくても思いついたことはやるべきであった。
刀で銃弾を反らすことが出来るならそれを当てることも出来るはずである。そう思って、銃弾に当てる刀の角度を調節した。
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ユミリアの右手から振り下ろされようとするハンマーの手の位置に跳弾した銃弾が当たる。苦痛に起きる動物的反応は素人では制御しきれない。大きく起きたその動物的反応はユミリアの次の攻撃に隙を与えた。その間、コンマ数秒。しかし、ケートニアー状態の自分にとってはそれで十分だった。
残りの弾を全て反射させてユミリアの胴体部に集中させる。体内の一点に集中させるように弾道を反らした。ユミリアにはそれを避けることは出来なかった。
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ユミリアの腹に集中し、体内の臓器を破壊しただろう。こうすればケートニアーとは言えども、素人のユミリアに生きていられるわけがない。銃弾を受けたユミリアはその場に倒れ込んだ。闘気は失われていた。
ユミリアは倒れたまま表情は笑っていた。インリニアには何故彼女が笑っているのか理解出来なかった。息絶えたはずのユミリアに、それでもまだ何か気にかかるような気がして見ると、その生気の無い目はぎょろりとこちらに向いた。
"நீலமான பூ, உயிரிழப்ப யோசனை, இந்த இடம் உங்களுடைய அம்மா இல்லை. விரைவில் நான் போகிரேந். எல்லாம் நீக்கும். கடவுள்கள் வரும். நாங்கள் செய எல்லாம் எதுவுமில்லை. அகர முதல எழுத்தெல்லாம் ஆதி, பகவன் முதற்றே உலகு."
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意味のわからない言葉を吐いて死んだユミリアの死体、突っ立っている特別警察達を後に去ろうと考えた。ユミリアの言葉も対して意味が無いだろうと、そう考えていたその時ユミリアの目には生気が一瞬戻った。
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そういってユミリアは何かを掴もうとして伸ばした手を地面に打ち付けて完全に息絶えた。最後に彼女が言った言葉も、私にはよく分からなかった。
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