#172 脱力

―ファールリューディア収監所・第三収容棟


"Jelなんと femmesj jaしても見つけろ! Cipe奴は tydiest第二収容 elj qate棟方向へ――"


 無線機を持つ看守はその瞬間首から血を吹き出してその場に倒れ込んだ。看守の血が灰色の壁に塗りつけられる。無線機が虚しく呼びかけるような声を発するのを私は左足で踏みつけて止めた。


"Pesterlstes居たぞ追え! Ers ci dea逃がすな!"


 追っ手は六人、倒れた看守の首元に血溜まりがあるのを見て血相を変えてこちらに来る。私は刀を構えて、向き合った。制服を着た追っ手たちは拳銃をこちらに向けて静止を呼びかけていた。

 私は目を瞑った。


 政府軍に身を置いたのは自分を変えたいからであった。インファーニア・ド・スキュリオーティエ・インリニアという名前が指す通り、私はスキュリオーティエ家の人間だった。ユフィア・ド・スキュリオーティエ・ユリアは叙事詩に英雄と書かれながらも、最期には仲間や同盟藩国の武士ヴェフィサイトたちに殺されてしまう。そうなってから、新たな時代が始まった。

 現代の当主は私の妹であった。妹は当主になるやいなや、叙事詩の主人公気取りで世界を変えようなどと頭の悪いことを繰り返していた。こんな当主について行くなど到底無理に思えて、私は家を出ていった。

 自分のほうがまともだと思って、国を守るために政府軍の徴兵募集に出ていった。素質を認められて、特殊なプロジェクトに参加できることになった。それが「テクタニアー計画」だ。計画の被験者は何人も死んでいった。残った私とフィシャ・レイユアフ、アレス・ヴェイザファ、イェクト・シェーター、リサ・エメーリェ、クワギー・フォヴィユの六人はお互い兄弟のようにお互いを愛し合い、慕い合い、暮らした。皆、計画に参加したものの境遇はそれぞれ違い、だが皆、苦難の境遇にあった。そのために革命派を憎み、計画に参加することで自分の体がおかしくなっても構わないと思い詰めた者たちだった。

 適合した被験者は革命派を滅ぼすがために各地に散らされた。最後まで残った仲間たちが生きていることを心の隅で願いながら、様々な妨害工作を行う日々の中で最終的に革命内戦は革命派の勝利に終わった。

 全てに気づいたのはレトラという街で、レイユアフが死んだということを知ってからであった。死んだレイユアフを追い詰めたのは革命派であったし、自分たちのためにレイユアフを処理したのは政府軍だった。あいつらには血も涙もない。ただ残っているのは乾いた欲望に向かう乾いた意思だけ。自分たちは利用されていただけで、自分たちの苦難や憎しみは奴らに利用されていただけだったのだ。

 こうして私は復讐に燃える悪魔ドルムとなった。レイユアフが死ぬまでの流れを調べ尽くし、革命政府の報告書を読み通してヤツガザキ・センにたどり着いた。まず、私はあいつを殺さなければならない。そして、殺されるのであればあいつがそうしなければならない。


 無残に倒れた六人の追っ手たちは皆、首から血を流していた。それを横目に進んでゆく。収監所の出口はよく分からなかったが、とりあえず進んでいけば外に出られるだろう。ヤツガザキ・センの行方を探すのはそれからだ。


"Mili待て, fentexolersti反革命主義者."


 聞き覚えのあるような声、確か早朝のラジオニュースで聞いたことがあるような声が聞こえた。振り返るとそれが誰だかよく分かった。ツーサイドアップの銀髪に、特徴的なオッドアイ。人民の妹ラータスゼン・ヴョユンザーという異名を持つターフ・ヴィール・イェスカの妹にして、ユエスレオネ共産党党首。


"Ers tarfターフ・ virl jumili'aヴィール・ユミリアか?"


 何故ここにと問うことも出来ず、私は立ち尽くしていた。


"Eifli'eya趣味で leus mi klieここに来た fal fqaんだ. Lecu mi簡単に plascekon言わせて lkurfもらう. Co veles君は retoo死ぬ."

"Aはぁ?"


 政治家がいきなり出てきて、「お前は死ぬ」などと宣言するあたりギャグか何かと思ってしまう。頬が緩むが、ユミリアは自信満々でその場に立っていた。邪魔だ、ここを出てヤツガザキ・センを殺す前菜がてらにこいつも殺してしまえ。


"Edixa mi面白いことを ajnlarde言うじゃないか!"


 一瞬でユミリアとの間を詰め、刀を振るう。ユミリアは避けるような反応も出来ず、ただ手を刀の前に持ってきただけであった。あっけなく斬られて終わりかと、味気なく思ったその瞬間、刀の動きが止まった。


"......!?"


 ユミリアは刀を指一本で止めていた。いや、正確には指と刀の間には隙間がある。指には傷も、血も流れていなかった。本能が脳内に警告を鳴り響かせる。その一瞬で、私は後ろへと距離をとった。


"Cope esお前 kertni'arケートニアー jarn!?"


 ユミリアは妖麗に微笑んだ。刀を止めた指を見ると、やはり傷一つ付いていない。ウェールフープを利用して、止めたに違いない。


"Werpernasterk'itウェールフープ剤を letixer es持っているのは niv penul旧政府 dznojuli'oだけじゃない lapからな."


 ユミリアはこちらへと瞬間的に移動してきた。その速さは、どう考えてもネートニアーによるものではなかった。

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