#220 難民を助けたくないのか?
目をこするフェリーサに先導されながら、行く道を帰ってくるまでには日は大分昇っていた。賭博場に行ったときはあれほど過ごしやすかったというのに日が昇ると途端に蒸し暑くなっていた。すぐにでも涼しい日陰に戻りたいという一心で家にまで戻って、やっと日陰だという安心感と共にドアを開けた瞬間に白銀色で目の前が塗りつぶされた。
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抱きしめられているという感触、知っている匂い、声色、目の前の白銀色は美しい髪だというのが分かってその相手がシャリヤだとすぐに理解できた。彼女は強く抱きしめて離さなかった。ここで一番心細くしていたシャリヤを翠が置いていくのは確かに良くなかったのかもしれない。
大切に強く強く抱きしめているシャリヤの肩越しにエレーナに叱責されているフェリーサの姿が見えた。横でレシェールやヒンゲンファールが彼女を宥めようとしていたが、憤りは収まらないようだった。彼女たちが言っているリパライン語は同じ部屋なのにどこか遠くで話されているようで、さっぱり聞き取ることが出来なかった。無言でただ抱きしめていたシャリヤの頭を慰めるように撫でながら、フェリーサのおかげで決心できるようになったことをはっきり伝えなければならないと思った。
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大声でも凄むような声でもないが、素直に真っ直ぐな飾らない声で言った。シャリヤは何かに気づいたように翠を離して、少し恥ずかしそうにしながらも床にぺたりと座って翠の話を聞こうとしていた。フェリーサたちもお互いに言い合うのを止めて翠の方に注目する。
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いきなりどうしたのと言わんばかりにシャリヤは驚いた顔を見せた。ヒンゲンファールとレシェールはお互いに顔を見合わせてから、どちらも頭の上に疑問符を浮かべたような顔をしてこちらを見た。唯一理解できているような顔をしているのはフェリーサだけだった。
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フェリーサに対峙していたエレーナがその言葉を聞いて、否定するように頭を振った。彼女はここに来てからずっとこの状況を受け入れざるを得ないという立場に立っていた。
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翻訳すればいい――と言おうと思ったが、それでは駄目だった。翻訳調の演説を話すのは翻訳者かネイティブだ。声に実感の伴わない演説を聞かされてもそれに感化されるわけがないと感じたからだった。PMCFの人々にこの声は届かない。
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翠が答えられないで居るとレシェールがそう言った。
エレーナの言葉はもっともだったが、レシェールの言うことも確かだった。ある程度リパライン語が通じたのは、空港職員と寮長だ。それにリパライン語に近い言語であるスルプ語は記者のような出で立ちをした人たちに話されていた。PMCFという国の中でもある程度、エリートや知識階級に居る人間がリパライン語を話せると仮定するのであれば、直接声を届けるのであれば演説より多くのユエスレオネ難民を集めてデモ行進でもしたほうが有力だろう。
デモなんて言葉は知らないので、説明的に言うほか無かった。
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シャリヤは気づいたような感じで答える。恐らく"
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対案も出さずに頭ごなしに反論を言われて、翠は苛つき始めていた。靴も脱がずに土足で部屋の中へと入っていき、エレーナに詰め寄る。
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「ああ、クソが、単語が分かんないんだよ……。」
イラつきが日本語になって自然に出てくるあたり、リパライン語モードなどというものの実在性に難が出てきた感じがある。そんなことはどうでもいいとして、これでは埒が明かなかった。冷静になって考えてみれば人員の集め方はさっぱり思いついていなかった。
翠の日本語を聞いて、その意味を尋ねる者は誰も居なかった。フェリーサすらもそれが出来ないほどに空気がギクシャクしていた。そんななか、来客を示す電子ブザーが静寂を止めた。一人だけ居ないミュロニユが帰ってきたのだろうと考えていたが、レシェールが玄関を開けるとそこには見知らぬ銀髪蒼目の男性が立っていた。
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