#71 "Parcdirxel"の解読


(あれ……?)


 辞書を見てみても、見出し語には"parcdirxパースディーシュ"はない。一番近い単語は"parcdirxelパースディーシェル"がそのままある。つまり、"parcdirxel"は動詞の派生語ではなかったということだ。語尾が"-el"だとしても、それを取り除いて動詞だというのは早計だったらしい。


Parcdirxel


【ftl.e】Ers esel parcax'it.パーサシュをする方法である


:Edixa xolショルはパースディーシェル furnkie parcdirxel.をフーンキェした:


 ふんわり分かるところを日本語にして、分からないところをリネパーイネ語のまま言語化しようとするとルー語みたいになるが、まあしょうがない。"parcdirxel"の語釈は分かりやすいものだけどここでもまた、"parcax"という意味を知らない単語が出てきた。よく見るとこの単語と"parcdirxel"は似ている気がしなくもない。とりあえず、"parcax"も辞書で引いてみよう。


Parcax


【ftl.a】Ersである icco olまたは marl ol lartass'i celdino……または人々を助け mal texto、そして、 tisodel'it.考え方を選ぶこと


:Larta's parcax'i人がパーサシュ textoを選ぶことは es lartassera.……である:


 語釈の内、"iccoイッソ"と"marlマール"は分からないが、その後の"lartass'i celdino……または人々を助け mal texto、そして、 tisodel'it.考え方を選ぶこと"は理解できた。多分先の二語は主語の羅列だろうからあまり深く考えなくても大丈夫だろう。つまり、"parcdirxel"の語釈である"Ers esel parcax'it."は「人々を助け、考え方を選ぶことを行う方法である。」と書いていることになる。


(つまり、どういうことなんだ……?)


 良く分からなくなってきた。とりあえず、"xolショル"の語釈にそのまま当てはめてみると"Ersである xerf furnkiergo xinien tisodel ol考え方、または人々を助け、 parcdirxel.考え方を選ぶことを行う方法"となるわけだ。

 少しづつだが、確実に解読が進んでいる。次は動詞の"furnkie"を調べることにしよう、と辞書のページをめくろうとして手を止める。


(あ、そういえばfurnkieは動詞じゃないかもしれないのか。)


 "parcdirxel"の語尾を接尾辞の"-el"と間違えて、"parcdirx"という存在しない単語を生み出してしまったように、"furnkiergoフーンキェーゴ"ももしかしたら動詞"furnkie"+緩衝子音"-rg-"+動名詞化語尾"-o"と見せかけておいて実は"furnkiergo"という一つの名詞でした~!ということもあるかもしれない。


 そういえばインド先輩が言っていたことだが、こうやって一単語の中身を誤解することで「元の語」を作ろうとしたり、その「元の語」から派生させようとして単語が新しくできることを「逆成」というらしい。

 例えば、英語の"edit編集する"は、16世紀ごろに"editor"が先にラテン語から輸入されて"-or"が行為者を表す接辞と解釈されて、原形の"edit"が動詞として17世紀ごろから使われ始めたらしい。ちなみに"editor"の語源はラテン語の動詞ēdō食べるの完了受動分詞ēditusから生成された動作主名詞ēditorから来ているらしい。これに基づくと、動詞の語幹はēdit-ではないので"editor"から"edit"を生み出すことは逆成ということになる。

 他の例では、タミル語のவிசாரிヴィサーリ(尋ねる)の例がある。விசாரணைヴィサーラナイは元々サンスクリットविचारणヴィサーラナから来たと思われるが、これをவிசார்ヴィサール+அனைアナイと誤解釈して、動詞化語尾の-iを付けて、விசாரிヴィサーリにした。சாதிサーティ(達成する)とசாதனைサータナイも同じような関係で、こういったことは良く起こるらしく、サンスクリット起源の語彙だから、本来の語形の成り立ちが十分理解されておらず、タミル人が本来サンスクリットにない動詞形を作り出してしまったゆえに出来た語形なのだとか。

 ソシャゲの「詫び石」が"apologies謝罪"と"gems宝石"の合成語"Apologems"として英語圏で定着したという話が最近あった気がするが、何も知らずにこれが詫び石だと伝えたら「あー、なんかジェムってソウルジェムのジェムっぽいから石のことじゃね」となって、「詫び」という意味の名詞"apolo"を逆成したら面白よねとかインド先輩が言っていた。まあ、何が面白いのかは良く分からないが。


 インド先輩もいっていたが、タミル語で良く分からない単語がある場合は難しいことは考えないで単語全体を探してから、それでも見つからなかった場合は適当なところで区切って、調べてみるというのが定石らしい。それでも、そういうのが出来るのは様々な文法や語形変化、歴史的変遷や借用語、何といっても「語彙」の知識があってこそできるのであって、異世界に放り込まれて二週間しか経っていない自分にとっては難しすぎることだ。


(とりあえず、"furnkiergo"そのままで引いてみるか。)


 そういって、翠はまた辞書をめくった。

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