#72 "furnkiergo"の解読


(furnkiergoは無いようだな。)


 近い単語に"furnkie"があった。やはり、考えた通りに緩衝子音"-rg-"と動名詞の接尾辞"-o"がこの動詞にくっついたものなのだろう。


furnkie


【ft.i】s celes iso i's c'csはiがcで在らせる. c es i'd et.cはiのエトである


:Mi furnkie私は単数形が xinirftle eustira'c複数形で在らせる.:


 うーん、sやiやcが出て来たが、これはもしかして格を表しているかもしれない。

 というのは、ドイツ語の動詞がとる格組を表す時も辞書などでは"j4 nach et3 fragen人の四格に物の三格を訪ねる"のように書く。この四格とか三格が名詞の格で、その決められたものと同じ形の名詞を入れることで適切に動詞を使うことが出来る。

 このリネパーイネ語の辞書も"-'s~は"や"-'i~を"などの格語尾を省略して書いてあるのではないだろうか。以前引いたことがある"en"の語釈が凄い勢いで多かったのはきっと取る格組ごとに動詞の意味が違うとかかもしれない。


 例文は「在らせる」というより、「変える」といったほうが自然かと思う。そうすれば、"xol"の語釈"Ers xerf furnkiergo xinien tisodel ol parcdirxel."は「人々を助け、考え方を選ぶことを行う方法、または……な考え方の……な変更のことである。」と解することができる。

 ここまでくれば、あとは形容詞だから訳さなくても大意は取れそうだが、一向に意味が見えてこない。というか、そもそも"parcdirxel"の語釈が長すぎる。これも多分一つの概念を指しているのだろう。よく考えてみれば「人々を助け、考え方を選ぶことを行う方法」というとなんだか「宗敎」っぽい気がしないでもない。形容詞を除いて、これに変えてみると「宗敎、または考え方の変更のことである。」ということになりそうな気がする。

 つまり、"xol"は「改宗」ということだろうか。


「改宗って何の話なんだよ……。」


 ぼやきながら、上体を反って伸ばす。一気に色々と考察してしまったので、割と疲れが出て来た。"fasel"の方も調べなきゃいけないのに気を抜いた瞬間から窓から入る陽気で眠気が誘われてきた。このまま寝てしまっても良いのかもしれない。まあ、そのイェスカさんが来たとしても自分は置いてけぼりになるだろうし、一目見てこの本の解読に戻るだろうが、まあそもそも題名の二語の解析にこんだけ時間を掛けていたら、この一冊を読み切るまでに何年掛かるんだろうか。

 そんなことよりここでうとうとしてたほうがきもちいいし、めんどうなことわすれてねちゃおう。おやす……み……。


"Jusnuk!"

「ぎゃあああああああああああ!?」


 いきなり視線上に現れた黒髪ポニーテールの少女と刺激的な音量の言葉に驚かずにはいられなかった。驚いた拍子に顔を背けようとして、そのまま少女の額と自分の額が衝突する。反動で椅子から転げ落ちてしまう。

 混乱の余り、自分がフェンテショレーに襲撃を受けているのかと一瞬思ったが、ばつが悪そうな顔で立っているよく見知った少女の姿を見て安心してしまった。


"Felircastiフェリーサ......"

"Naceごめん, jol mi celesあなたが……すること jusnuko co's.をさせよう……"


 謝っている文脈上、フェリーサは釈明をしているらしいかった。目を潤ませてこちらを見てくるのだから、赦すほかやりようは無かった。まあ、人を驚かせようとして事故を起こしてしまう例なんて幾らでもあるし、こちらがフェリーサを撃たなかっただけでも幸いといえるだろう。

 あまり詳しくは知らないが、友人にドッキリを仕掛けようとして射殺されてしまったような人もいるくらいだし、自分は自衛用にヒンゲンファールさんから貰った自動拳銃らしきものを常に携帯しているから、驚いた拍子に撃つかもしれなかった。銃を託してきた彼女曰く、「フィシャが逃げていれば、フェンテショレーから戻ってきた彼女が殺そうと狙うのは私と君だ。」とのことだった。まあ、ちゃんと理解できているか不安ではあるが。


"Mercところで, cen akrante翠は何を harmie fal今日は fqa'd snenik?読んでるの"

"Arあー, fqaそれは......"


 フェリーサの素朴な質問に答えかけて止める。図書館に似合わぬ、床の振動と何者かが駆け上る足音が聞こえたからだ。フェリーサも疑問に思ったようで、きょとんとした顔でこの階と通路側を隔てるすりガラスのドアを見つめていた。

 このフロアは地上階から階段を二回上がったところにある。各階の踊り場と書庫のある部屋はすりガラスのドアで隔てられているらしく、昇ってくる者が居ればそこから入ってくるはずだということだ。これだけの振動を駆け上るだけで伝えさせてくる重装備の者といえば、レトラの民兵かフェンテショレーの軍くらいしか頭に浮かばない。どっちみち、自分には嫌な思い出しかない人間集団だった。


「……。」


 上着に隠していた銃をいつでも取り出せるように準備する。相手が危害を加えて来るようなら、自分を自分でここでは守らなくてはならない。警察も軍も、居たとしても当てにならないのが紛争状態の地域というわけだ。

 ついに足音は同じ階にまで昇ってくる。翠は意を決してそのすりガラスの開くのを見つめていた。


"Cenesti! Elajanerfen!?"

「来たな、フェンテショレーめ……って、えっ?」


 昇ってきたのは片手に機関銃、弾帯を肩に掛け、タクティクスベルトにフル装備したヒンゲンファール女史であった。

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