#144 時間と空間


 学校の食堂の空間はモノクロ模様で埋め尽くされていた。テーブルに座っている生徒たちの髪色は相変わらず、黒と銀ばかりで翠たち一行もその例に漏れては居なかった。


"Fey es fqaはこっちだ."


 インリニアに案内された先には、レトラの食堂と同じようにトレーにそれぞれ食事が置かれていく形式のシステムがあった。レトラの質素な食事とは違い、育ち盛りの生徒向けに数種の料理が用意されているらしかった。

 適当にトレーに食事を取ってきた後、翠はインリニアについていきながら席につくことになった。もう既に生徒たちが大量に居たために座れそうな席を見つけるのに難儀していたが、無事座れそうなスペースにありつけた。


"Manマン jeジェ muriムリ......"


 カリアホは混雑している食堂の様子を見て圧倒されていた。三人共に席につくと、食事を始めたが意外にも薄味の味に皆最初の一口で微妙な表情になっていた。一番食事に文句を言わなさそうなカリアホでさえ、表情から残念そうな雰囲気が出ていた。

 インリニアはこちらを向いて、指を指していた。


"Cene co lodiel君の前のその…… fgir'd nys違う、後ろのtuj pesta......ニュストゥイを貸してく niv, fasta coれないか?"

"fasta mi俺の後ろの......?"


 "fastaファスタ"は知らない単語だったが、"pesta~以前に"という単語に似ているし、一度言い間違えているのを鑑みると文脈から考えて「~の後に」という意味だろう。"nystujニュストゥイ"が何を指しているのかはよく分からないが、それは見れば分かるだろう。

 インリニアに指示された通り、後ろを見る。後ろに何かがあると思ったが、見えるのは後ろに座って歓談している他の生徒の背だった。なにか言いたいことでもあるのかと怪訝そうにこっちを見る目を避けるようにして、翠は顔をそむけた。

 一体何の指示だったのか、再度確認するためにインリニアの顔を見合わせると呆れた顔でこちらを見返してきた。


"Harmie co xel何を見ているんだ?"

"harmie何って...... co lkurf君が"fasta mi" <fasta mi>って言った magから......"


 インリニアは深くため息をついた。


"Cene co xel fgirあれが見えるかい? La lex es nystujあれがニュストゥイだ."

"Firlex,なるほど"


 インリニアの指さした方向には、調味料があった。テーブルの中央にあって、大体翠の前あたりにある。それのうちの一つをインリニアは腕を伸ばしてとって見せていた。その調味料の名が"nystujニュストゥイ"と言うらしい。

 インリニアに対して翠の影に入るように席に座っていたカリアホも彼女の説明している様子が何を表しているのか興味があるようで食い入るようにじっとインリニアを見つめていた。


"Edixa fqa'dこの調味料は nystuj mol君の……に fasta coあった."


 インリニアは調味料を持った手を翠の背中に持ってくる。説明するその表情になにか安心できるものを感じた。


"No io nystuj今調味料は mol pesta co君の……にある."

"Firlexなるほど.......,"


 つまるところ、"pesta"/"fasta"は空間と時間で指す方向性が違うらしい。空間に対して"pesta"を使う場合は、「~の後ろ、~の後方」を指し、時間では「~の前、~する以前」を指す。"fasta"はその逆で、空間に対しては「~の前、~の前方」で、時間に対しては「~の後で、~した以後」となるということである。日本語話者の翠にはめちゃくちゃに感じるが、時間と空間の表現の繋がりは様々な言語で割と異なるらしい。

 日本語では「過去」のことは「前のこと」で、「前の週」という表現が可能だが、中国語では「上」を使って「上周」になるようだ。ちなみに中国語では過去を左、未来を右と表現する場合があるが、これは書記体系やカレンダーに影響されるものらしい。つまり、左から右に文字を書く英語話者は左を過去 - 右を未来と認識し、右から左に文字を書くヘブライ語話者は左を未来 - 右を過去と認識するらしいのだ。


 理解を噛み締めていると、インリニアもカリアホも誰かがこちらに近づいてきているのに気づいて顔をそちらに向けていた。こんな混雑の中に目立つような人間が一体誰が来ているのだろう――と思い顔を向けるとそこには見覚えのある顔があった。


"Salarこんにちは, cenesti. Fi co knloanもし食堂で何か…… fhasfa'tj fal食べるので knloanalあれば, harmy coなんで呼んで derok niv miくれなかったの?"

"Arあぁ......"


 目の前に居たのは、シャリヤだった。その銀白に輝く長い髪、蒼玉のような透き通った瞳は忘れることはない。だが、その表情は複雑な感情を抱いていることを直に感じさせた。

 シャリヤの方に顔を向けたままのインリニアは、シャリヤの口調が気に障ったのか顔をしかめた。


"Mi私は xelvirkarx tatyo knloano'it si'tj彼……食べることを. Lirs, lkurfer話す人 infaynnaj l'es co es harmae君は誰だ."

"Co'sci es harmaeあなた……は誰なの? Si es niv fhasfa'd彼は誰の…… faneではない. Shrloしろ morsもの cix moliupi'a nivない si."

"Lipalainリパラインの mianactorsti, co lkurfuce. Falurmes jarlesa come's."


 シャリヤとインリニアの言い合いは翠には語彙力が低すぎて何も分からなかった。ただお互いが言い合うたびにどんどん険悪な空気になっている気がしていた。

 シャリヤは翠の後ろの方に座っていたカリアホの姿にも気付いて、さらに表情をゆがめた。


"Carli, mi tydiest私はもう行く. Salaruaさようなら."


 険悪な雰囲気のままシャリヤはその場を去って行ってしまった。インリニアは良く分からない言語でぶつぶつ不満げに言っているし、カリアホもどうすればいいのか良く分からないといった表情であった。

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