#143 昼休み


 今日も先日と同じように、リパライン語で授業が行われていた。当然だが、教師の話していることが完全にわかるわけではない。隣にシャリヤやエレーナ、フェリーサやヒンゲンファールでも居れば話は変わってくるのかもしれない。


「はぁ……。」


 翠は深くため息をついた。

 時計が指し示している時間は12時、地球の学校と同じように生徒たちは授業から解放されて教室は閑散としていた。


(昼休みか……)


 食堂が何処なのかよく分からないうえに、お金らしきものも持っていない。どうすれば良いか分からないまま自分の席に座っていると、席の前に誰かが居ることに気づいた。

 目尻が上がっているつり目気味の目、黒い瞳、茶色がかった黒のショートの髪、見覚えのある人影は呆れ気味にこちらを見つめていた。


"Tismal, co qune niv君は……それを ny la lex知らないのか? Harmue knloanal何処に食堂が molあるのか?"

"Arあぁ......merえっと......"


 眼の前に居たのは、町中で刀を抜いて峰打ちし、その後何事もなく翠にリパライン語を教えた帯刀少女――インファーニア・ド・ア・スキュリオーティエ・インリニアであった。母語がリパライン語ではないだろうに、流暢に喋る姿はいつ見ても羨ましいものであった。

 それはそうとして、彼女が聞いてきたことはよく分からない。"la lex文脈指示の「それ」"の前に"ny語義反転"がくっついている。「それ」の反対とは「あれ」だろうか?それにしてもよく分からない。


"Fi co miliもし誰かを待って niv fhasfaいないんだったら, elx lecu miss一緒に食堂に tydiest knloana'l行かないか? "

"Ar, jaえっと、ああ infarni'astiインファーニヤさん, lecu miss tydiest一緒に行こう!"


 「インファーニヤ」と呼ばれたインリニアは、また顔を真っ赤にして驚き恥ずかしがっていた。頭に血が上ったのか、彼女が腰に指している刀の鞘に手を掛けると、翠は"nace, naceごめんごめん!"と謝った。

 インリニアはため息を付いた。


"Malそれじゃあ, lecu miss tydiest閉まる pesta elx前に knloanal lusvenil行こう."

"Jaああ."


 "pestaペスタ"は確か「~以前に」という意味だったが、文脈から考えて「~をする時間の前に」という意味だろう。"knloanal lusvenil"は「閉める時を食べる場所」とも「食べる場所を閉める時」とも読めるが、これも文脈から考えて後者と解釈できる。

 椅子から立って、インリニアについていく。教室に残っていた生徒たちは去る自分たちを一瞥してそれぞれ自分たちの会話に戻っていっていた。


"Malそれで, selene mi qune君の母語は co'd fagrigecioなんなんだ. Mi'd fagrigecio私の母語は es vefiseヴェフィゼ語だが."

"hmmうーん......."


 食堂まで向かう間、インリニアは適当な世間話でもするかのような雰囲気で「母語」の話をしてきた。日本でいきなり世間話に「お前の母語は何だ」なんて始めることはめったにないだろう。少なくともファイクレオネという惑星のユエスレオネという国に住む彼らにとっては、多言語が共存している環境がそれだけ自然ということなのだろう。そのうえでリパライン語はリングア・フランカとして使われている。漢字文化圏の漢文、ヨーロッパのラテン語、アフリカのスワヒリ語のようにお互いの民族語を差し置いてお互いに繋がろうとするための言語となっているわけだ。

 廊下を歩きながら、インリニアは首を傾げてこちらを見ていた。


"Mi'd fagrigecio俺の母語は es nihona'd日本語 lkurftlessだよ."

"Hmmふむ...... mi qune nivその言語は la lexe'd知らない lkurftlessなあ. harmue nihona molニホナってのはどこにあるんだ?"

"Nihonsti日本のこと?"


 インリニアは"arああ, ers nihon日本か."と返した。

 よく分からない言い間違いは多分緩衝音のせいだろう。"nihon"に"-'d"をつける時は間に"-a-"が入るということはなんとなく分かっていたから、適当に付けて言っていたが、もし"*nihona"というように緩衝音と同じ母音で終わる単語があったら区別は文脈によるだろう。固有名詞ならどっちが正しいのかよく分からなくなってしまうので、間違えるのも頷ける。

 それはそうとして、インリニアの質問は答えづらいものだった。「俺は異世界から来た」などとこの世界の人間に言っても、ファンタジー小説の読み過ぎで終わるだろう。異世界転生ものがこの世界にもあるのかはよくわからないが。


"Nihon mol日本があるのは...... "

"Tar Yatsugazakiタル ヤツガザキ, zaraauaザラーウア."


 インリニアの質問に答えようとしたところ、訛ったリパライン語と別の言語の声が聞こえた。声の聞こえる方を向くと、そこには黒髪ロングの少女、カリアホが立っていた。初めて会ったときに来ていた民族衣装とは違い、学校の制服を着ているのはなんだか違和感を感じたが、ユミリアさんも言っていた通り彼女はリパライン語とここの文化を学ぶ必要があるのだからこの学校に所属することになったのだろう。


"Lecu ci'tj tydiest彼女……行こう?"

"Jaええ."


 カリアホは翠の隣にインリニアが居ることを認めると少し表情を曇らせたが、身振り手振りで一緒に行こうと伝えると頷いて翠の後ろに隠れながらも一緒に食堂に行くことになった。

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