#342 史上最小の作戦
ところ変わって、和風の一室の前に俺は居た。先の部屋は尋問用であり、あそこに詰め込んでおくと条約がどうのこうので問題だったらしく、谷山は彼女をこの畳の部屋に移していたのであった。
警備付きの戸を引き、その中に入るとフィレナはぺたん座りで丸机に向き合っていた。その手にはマーカーがあり、紙の上に精巧な男性の顔が描かれていた。
靴を脱ぎ、近づくもフィレナは全く気づいた様子がなかった。相当な集中力だ。
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"
ビクッと反応したフィレナは即座にこちらに振り返る。
"
そう訊いた瞬間、彼女の顔は少し陰りを帯びた。
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"
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"
"
フィレナは昔を思い懐かしむようにマーカーで描かれた兄の頬にそっと触れる。
"
なるほど、と首肯する。
ネートニアーであった兄がケートニアーのフェンテショレー軍の手によって殺された。それでフィレナはケートニアーでないことにコンプレックスを拗らせて、ネートニアーでも見返してやると奮起してシェルケン兵に入ったということらしい。
"
顎を擦りながら、そういえばと思い出したことを口にする。フィレナはそれを訊いて、首を傾げた。
"
"
"
胡乱そうに蒼い目を細めて訊く。その声色には不信の感情が籠もっていた。
というか "
ともかく、そういうんじゃないと俺は首を振った。
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"
不信の感情が解けたのか、元のアンニュイな表情に戻っていく。彼女はまた兄の頬を指でなぞった。
"
俺は無言で頷く。そして、しばらくは彼女の時間を尊重してやった。時間がないというのは分かっているが、死者とのあわいを邪魔したくは無かった。
ややあって、俺に向き直ったフィレナにタイムリミットがあることを説明した。そして、俺の目的はシェルケンを死滅させることではないとはっきりと言った上で、目指すべき方策――シャリヤを奪還し、シェルケンをこの世界から撤退させること――を検討し始めた。
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"
"
そういってフィレナはいきなり立ち上がった。黒いマントの中に穿いていた短いスカートが目の前で振れて、ふわりと甘い香りが舞った。
突然のことに戸惑うが、なにか思いついたようで俺を指差す。
"
"
聞き慣れない単語が飛び出してきたことで状況は良く分からないものになった。 "
そうなると直訳では「解放された者」という意味になるが、それでも俺は彼女の意図を理解できずに居た。
"
そういって、フィレナはたどたどしいリパライン語で驚きの作戦を提案してきたのであった。
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