異世界転生したけど日本語が通じなかった

#302 三度目のサフレク

"Lefhisti（レフィ）, Jedalsies（俺がここから） taval mi'st fal（出たら立っている） ny enil fqa ler（ところに電撃を加えろ）."

　俺たちは木の後ろに隠れていた。あの至近距離で遮蔽物もないのに遠距離攻撃できる二人の前に出ていくのは危険だった。だが、隠れていられる時間も長くはないはずだ。すぐに回り込んで仕留めに来るだろう。

"Pa（でも）, xatvasti（先輩）, wioll jol co（何をするつ） es harmie'i（りなんですか）?"

"Mi tysnen（俺は銃を持っ） letixer paz（てる方をやる）. Co veles niv（そっちは倒されない） tysneno melx（ようにして） shrlo xel ci（彼女を見ていてくれ）."

　答えも聞かずに俺は木の裏から飛び出した。瞬間、地面が弾け反動で体が宙に浮かんだ。思ったよりも急だったが、木に衝突する前に枝を掴むことに成功した。惰性で猿のように枝と枝の間を移動していく。やったことが無いことをイメージ通りに出来たのに驚いた。これもケートニアーとしての身体特性なのだろうか。

"Pusnist（止まれ）!"

　そんなことに驚嘆しているうちに前方から声が掛かる。先程の男子生徒がこちらに銃を向けていた。言った瞬間に発砲して、その弾は明後日の方向へと飛んでいった。彼はそのままトリガーに指を掛けたまま、放心状態になっていた。

　瞬時に枝から手を離して、銃を持つ男子生徒の元へと襲いかかる。野生児さながらのアクションで銃を持つ手元に組み付いた。高所から落ちてきた衝撃がそのまま銃に加わる。持っていた手をすり抜けて、銃床がそのまま彼の腹を抉るように食い込んだ。

　彼は銃を手放して、腹を抑え、ふらっと後ずさりをする。

"Hgg（うぐっ）.......!"

　手放した銃を拾い上げ、銃口を彼に向けて躊躇なく撃った。乾いた銃声が森に鳴り響く。そのまま彼は何も言わずにその場に崩れ落ちた。変に痙攣もせず、意識を失ってそのまま倒れ込んだように見えた。

「……」

　往年の伝統的死亡フラグ、“やったか!?”を防ぐために銃口で身体を突いてみるも反応はない。どうやら気絶しているようだ。というのもこの銃で撃たれた場所が見つからないのだ。ウェールフープ銃は経絡秘孔を突き、体の内部からの破壊を目的とした殺人銃……ということはないだろうが、ともかく内部にダメージを与えるタイプの武器なのだろうと思った。出血が見られないうえに外したわけでもなさそうなので恐らくそうなのだろう。

　銃を頂戴して、周囲に耳を澄ませる。すると、首筋が暖かくなるような感触とともに何かが焦げるような音が聞こえてきた。

"Lern fqa ler（そこから離れて）!"

　視界の端に強い光が見えたと思ったら、次の瞬間には吹き飛ばされていた。地面に体を擦り付けられ、起き上がったとき、それが何故か完全に理解した。レフィが横から現れて、安心した表情でこちらを見ていたのだ。そして、先程まで居た場所に目を向けるとそれが現れていた。

　地面が溶解していた。まるで水面のような液体の中に草木や土が飲み込まれていく。中心部ではあぶくがゆっくりと生成されて、弾けてを繰り返していた。

"Afuzarfrirga（……が） mol niv felx（居なければ） edixa cene mi（私はあなたを……） tysnen co（できていたわ）, cenesti（翠）......"

　その向こうから現れたのはエレーナだった。腕を組んでやれやれといったような表情でこちらを見ている。

"Deliu mi veles（倒されるわけ） niv tysneno（にはいかないんだよ）."

"Selene niv mi（私だってあなたを） at tysnen co（倒したくないもの）. Pa（でも）, edixa mi lkurf（私はあなた……） fonti'avo el co（……をいった）......"

　そういいながら、エレーナは白煙をまとった手をこちらに向けてくる。同時に手元の銃の銃口を彼女に向け、引き金を引いた。

　乾いた銃声を飲み込んだのは紅く光る液体であった。銃の与えた衝撃のようなものを先程できた池のような地面が隆起して遮ったのだ。

"Cene niv co（銃撃はあれが） pazes fal la（ある限り） lex fudiuril（出来ませんね）...... Cene miss es（どうしま） harmie'i（しょうか）......"

"Cene mi cikina（これ……私は） ceco fai fqa（……を……できる）. Cene niv（……は） vilececo luni'a（私へ……できない） mi'l（わよ）."

　エレーナは灼熱の池を挟んで、不敵な笑みを浮かべた。

　灼熱の池、あの溶解している場所さえどうにか出来ればその隙を突いて、倒せる。男子生徒が一撃で倒れたようにこの銃があれば可能だ。だが、強烈な熱気で近づけないほどの溶解部分を一体どうすれば……

（熱……灼熱……？）

　閃きが頭の中を満たす。瞬間の出来事だった。

"Caflek（サフレク）!"

　天に手をかざし、そう叫ぶ。もちろんイメージは大豪雨。すると空は一瞬で曇天となり、叩きつけるような雨が再現された。

　それと同時に灼熱の池が冷却されたからか、水蒸気で辺りが満たされる。エレーナの顔は見えない。しかし、近くにいるレフィの顔はかろうじて見えた。おそらく相手もこちらの顔は見えないはずだ。一瞬の勝負となる。

"Lefhisti（レフィ）, jedalsies fua xelal（辺りを照らせ）!"

"Firlex, xatvasti（了解です先輩）!!"

　ぱっと光った閃光の中に映る人影、そのシルエットに瞬時に銃口を合わせ、そして撃ち抜いた。今度の銃声は空しく鳴り響いたのではなかった。

　人影はよろけて後ろに持たれるようにして倒れ込んだのであった。