#243 お兄ちゃんとベリー


 焦りが脳を支配する。待つことを指示していたところからシャリヤの姿は消えていた。一体、何処に行ったのだろうかと周りを見回すも近くには気配が無かった。インリニアの顔も険しくなっていた。なんだかんだ言って彼女もシャリヤのことを心配しているのだろう。


「シャリヤ……シャリヤ!!」


 近くに居るのだろうと思って呼びかけてみるも答えはない。代わりに答えたのは近くの茂みだった。奥の方から草などが震える音がする。しかしたら、俺たちがフィメノール信者たちと一悶着やっているうちにシャリヤは誰かに襲われたのかも知れない。心配と焦り、後悔が頭の中で渦巻く。彼女のことを一人にしておいてこなければこんなことにはならなかったはずだ。

 茂みの震える音はどんどん近づいてきていた。俺が動けないなか、インリニアは刀の鞘に手をかけて構えていた。ファイクレオネに来て以来、危険なことは枚挙に暇がない。少しでも危ないと思ったら注意することは海外旅行でも常識の一つだろう。自分でも正しい選択だったのだろうと思う。だが、茂みから出てきたのがで無かったらの話だが。

 きょとんとした表情で茂みの中から出てきたのは銀髪蒼眼の美少女だった。ワンピースの裾を持って作ったくぼみの中に様々な色のベリーや果実が入っていた。木漏れ日を反射して宝石のように輝くベリーの暖色とシャリヤの髪と瞳の寒色のコントラストがビビットに感覚を刺激していた。


"Costi君は, edixu harmue何処に行って tydiest居る……?"

"Cene nivこれが co xel fqa見えないの?"


 シャリヤが裾を少し上げてベリーを示す。彫刻のような美しい脚が顕になり、どきりとした。視線をすぐにベリーの方へとそらす。

 恐らく、彼女は森の中のベリーや木の実を取りに少し離れたところに居たのだろう。心配も取り越し苦労だったようだ。そもそも、良く考えてみればシャリヤはレトラに居た頃からライフルの扱いに長けていて戦時中を生き延び、インリニアを銃床で殴って気絶させたことがあるほどのサバイバルガールだ。余計に手を出した人間が生き延びれるかのほうが心配になってくる。彼女を司書にするのはやめておいたほうが良いのかも知れない。ヒンゲンファール女史のような人はこの地上に一人で十分だ。


「あぁ、でも、エプロンを着て蔵書整理をするシャリヤも見てみたいような……」

"......Co lkurf何か私に fhasfa mels mi言いたいことが?"

「んー、サバイバルといえばキャンプをするシャリヤも良いな……」

"......? Cenesti?"

「迷彩服でサバゲーするシャリヤもまた尊い……」

"おにーちゃんが好き?"

「ひぁっ!?」


 日本語による突然の告白、驚きで変な声が出てきてしまった。シャリヤ自身はまだ不思議そうな顔をしていた。

 しかし、良く考えてみれば"Onirchangお兄ちゃん"は教えたが「好き」という動詞は教えてないし、何かの聞き間違えなのかも知れない。日本語は/i/や/u/という母音が無声子音に挟まれた時などに母音が聞こえにくくなることがある。これを母音の無声化と言うが、「好き」は実際の所/ski/のような発音になっているだろう。あとはハワイ語で/t/と/k/が異音の関係なのを鑑みれば元々の/sti/の/t/を/k/と聞き間違えることもあるのではないだろうか。つまり、"Onirchang"にリパライン語の呼格"-sti"が付いただけという話になる。助詞の「が」の部分は"Onirchang"と"-sti"の間に緩衝母音として"-a-"が挟まれていたものだ。語中以外のが行は鼻濁音、つまり軟口蓋鼻音になることを鑑みると、本当にそう聞こえただけなのだろう。シャリヤは以前聞いた日本語の呼称で俺を呼んだだけだったのだろう。

 俺ががっかりしながら安心している一方、インリニアはそんな俺を怪訝そうに見ながらベリーを見分していた。俺もこのベリー類には興味があった。


"Merえっと, Harmie esこれらは fgirss?"


 俺がベリーに興味を持ったからか、シャリヤは意気揚々という雰囲気で近くに倒れていた木に座りながら膝の上に転がるベリーの一つを取って見せた。まるで宝石のコレクションを自慢するような彼女の仕草は可愛らしくて堪らなかった。


"Fqa esこれは valkarsa zuヴァルカーザ es kesiet pynost……な dyrur……よ. La lex esそれは velgerl fuaウォルツァスカ?に woltsaska…………. Fqa esこれは ladawi'umラダウィウムね."

"F, firlexな、なるほど......"


 シャリヤの説明は詳細的だったのだろうが、その内容は全く理解することが出来なかった。途中から専門用語のような言葉が聞こえてきたような気がするし、段々と説明のスピートは早くなっていっていた。インリニアもシャリヤが説明のノリに乗っている様子を見て奇妙なものを見ているような表情をしていた。


"La lex esそれは velgerl fua……と nistilladau adit……に ladavoim……, vixneflargen…… navgirkhen…… xedirxel…… naxerrgerl……. Malそれに, fqa esこれは wolzi'riurdzeウォルツィリュージェね zu es kesiet………… dyrur fua luso……肉の……と larzi'd cardza…………に ad nujxpel使うための……. Fqa es raiskorこれはライスコー mal......"


 彼女による木の実の説明はついぞ一時間以上に渡った。遂には日が暮れ始め、それに気づいた彼女が調理場に戻ることを提案したところでやっとのこと終わったのであった。

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