#361 知らないはずの情報
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ヴェアンに凄んでいたアルテリスは、質問を受けた瞬間に詰まってその先が言えなくなっていた。
一体何が書いてあったのか、自分に配られた書類の方に視線を落としてみる。文章の始まりはこうだった。
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殆どがわからない単語で埋め尽くされていて、文書が何を言おうとしているのか雰囲気すらも分からない。しかし、二点だけピンと来る単語がある。日本語話者ならば誰でも気づく単語だ。
それは "
(谷山のことについて書かれている? どういうことだ?)
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ヴェアンにそう言い残して、俺は教室から出て、PHSを取る。連絡先から、豊雨の文字を探し出して、電話をかける。
『あれ? 八ヶ崎さん、どうかしましたか?』
「少し聞きたいことが。大使館の人事について知っている外部の人間は誰が居ますか」
『うーん、そうですね。普通の大使館員は、色々と動いているので、ここならユエスレオネ連邦の外務省職員だったり、私のことだったら文化関係者も知っていることだと思います』
「在外公館警備対策官の名前を知っている者は」
『うんと……警備官は現地の安全保障上の情報収集をしたり、警備企業と共に在外公館の防衛計画を立てるんですが、今回はリパライン語が話せる人間が少ない都合上、自衛隊や警察から警備人員を出しています。この辺の人事については、極秘みたいで私もよく知らないんですけど……こっちの政府の人も谷山さんや尾崎さんのことを知らないんじゃないでしょうか』
「分かりました。聞きたいのは、それだけです」
『あ、ちょっと、八ヶ崎さん! なんでそんなことを――』
豊雨との通話を切断し、教室に視線をやる。ニェーチとアルテリスも教室から出てきて、何やら急いで何処かに連絡をしているようだ。
".Isnête tê ai lhinggâj anshe ghaiuchna sniâ .Hourîche yepchûtash guiâmstaika illhe"
"Er lei, iig digaina gezhprestaxtlnt ? S:oisen:xtnis: giidin re lm' Vean."
聞き覚えのない言語は、彼らの国の言葉なのだろう。おそらく、彼らのテクストに書かれていたのは、同じような国の機密情報だ。そもそも、何故、語学研修所の職員が大使館の警備人員の情報なんて知ってるのか。機密情報を知っていることを俺たちに知らせて、何がやりたいのか。
俺は焦るニェーチたちを一瞥してから、疑問に満ちたまま教室へと戻っていった。
* * *
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教室に戻ってきた三人にヴェアンから下されたのは、そんな単純な問題だった。しかし、当然俺たちは黙り込んだままだった。
問題に答えること自体がほとんど不可能であるからだ。
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俺はハッとして顔を上げた。そうだ、俺は今、ヴェアンにシャリヤへの道を塞がれようとしている。いわば人質を取られた状態だ。なんとしてでもこの課題を乗り越えなくてはならない。
しかし、どうやって? ニェーチとアルテリスが持っている内容は他人には絶対にバラせないような機密だ。懇願しても明かしてはくれないようなものをどうやって知ることが出来るんだ?
(いや……そうじゃないな、もっと賢い解法がある)
俺は立ち上がって、ヴェアンに詰め寄った。彼は怖じける様子も無く、俺の目を見ていた。
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ヴェアンの答えを確認した瞬間、俺は横に居るニェーチの方を向いた。
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俺はヴェアンの元にある紙を一枚取り、そこに一文を書いてヴェアンに渡した。そして、呆気にとられたニェーチとアルテリスを背後に教室を去っていった。
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