#54 もしあなたが望むならば

「助かった……のだろうか……。」


 翠はヒンゲンファールと共に図書館に連れ込まれていた。体に異常がないことを確認するとヒンゲンファールは着替えを用意してくれたし、温かい飲み物まで用意してくれた。一口飲むと気分が落ち着くと共に自分が法廷で何もできず無力であったことを再度思い出させた。


 翠を連れて行こうとしていた民兵たちはヒンゲンファールの乱入によって止められた。裁判長もジュリザードも共にその乱入者を注目していたわけだが、ヒンゲンファールは二人に一言の反論も許さない様子で長文の意見書を読み上げていた様子であった。裁判長やジュリザードの質問に対しても毅然とした態度で対応していたので準備でもしていたのかという感じになる。まあ、準備でもしていたら最初から翠を弁護していたのだろうから、偶然というか始まったことを知って、驚いてやってきた感じにも見えた。


 そんなことはともかく翠は彼女の努力によって裁判所とむさ苦しい民兵たちから解放され、この図書館でヒンゲンファール女史とゆったりしているわけである。異世界転生物の主人公がいきなり独房にぶち込まれ、裁判を受けて幽閉されるかのところで、サブヒロインですらない女性に助けられるなんて、自分でも思ってみないことだった。まあ、現実とはこういうものでファンタジーな異世界なんて存在しなかったということだが。


"Hingvalirstiヒンヴァリーさん, xaceありがとう."


 書庫の整理なんかに使う帳簿の整理でもしているのだろうヒンゲンファールの背中にぼそっと呟いた感謝の言葉はかすれていた。長時間強いストレスを受け続けていたからか、独房の環境が悪かったからか、あまり大きな声が出せないでいた。


"Coあなた g'es jatekhnef, mi celdin coあなた. Als niv esではない."


 うむ、あまり良く分からないのは恒例だが、どうにも自分が悪い感じではないらしい。


"Malそれでは, harmie co lkurf si'c彼らには何を言ったんです?"

"Mi lkurf fqa mal私が言ったとして elx cene co firlexあなたは分かる?"

"......"


 ごもっともです。

 おおよそ自分には分からない高度な法的知識を使ったに違いありません。そもそも地球の法律ですら理解するのがきついのに、異世界の法律なんて理解できるわけがない。当然言語もまともに話せないのにそもそも理解できるできないの問題ですらない。


 気分が落ち着いてきたところで、一つやらねばならないことを思い出した。シャリヤやレシェールに心配を掛けているに違いないと思ったから、彼らに会って自分の無事を示さなければならないと思った。


"Hingvalirstiヒンヴァリーさん, deliu mi tydiest俺は行かなくてはならない."

"...... Harmue? Mi pusnist私はあなたを……しない niv co pa elx deliuけど、……に行く niv tydiest ete'cべきではない."


 どうやらヒンゲンファールはここに翠を留め置きたいようだった。窮地に陥った人を助けた人間特有の怪我人から目が離せないという感情なのだろう。怪我などしてないし、喉がかすれていること以外は体に異常はない。しかし、ヒンゲンファールは心配そうにこちらを見てくるので、体調も何も特に悪くないということを伝えたかった。


"Cene niv mi上手く言うことは tesyl lot lkurf niv出来ないけれど pa mi is niv pikij頭痛はない. Selene俺は mi tydiest xalija'cシャリヤのところに行きたい."


 そう伝えるとヒンゲンファールは少し物憂げな表情をして、すぐに帳簿の整理の作業に戻った。


"Fi coあなた karx neaj,......"

「えっ?」


 ぼそぼそとヒンゲンファールが言った言葉はあまりはっきりと聞き取れなかった。自分のことを心配してくれているのだろうが、翠には危険を顧みずやってきてくれたレシェールと一番心配しているであろうシャリヤのことが今までずっと気になっていた。ヒンゲンファールには、落ち着いてからお礼をするとして、今はやるべきことがある。


"Hingvalirsti, xaceヒンヴァリーさん、ありがとう."

"...... Miss'd私たちの la tonir tast niv……ない miss私たち xale lartastanss."


 ドアに触れた途端にヒンゲンファールはまたぼそっと呟いた。今度ははっきり翠の耳に聞こえてきた。"tonir"という語が出てきたことから鑑みるに心配する彼女なりのけじめとして自分に対して祝福してくれたのだろう。


 図書館の外に出て風を感じる。ずっと独房だの裁判所だのの中に押し込まれていたからか窮屈に感じていた体も解放感を感じて気持ちがいい。背伸びしてみたり、腕や足を伸ばしてみると独房に居た頃のストレスもすっかり感じなくなっていた。レシェール、シャリヤ、エレーナ、フェリーサ、彼・彼女らがいた自分が今まで平凡に暮らしていたあの家に戻る時がやってきた。


 図書館から出て左の道に入る。割と大通りの道の脇は日中割と人が道端に多く居て、世間話などをする様子が見れていた。この道を通って、家との行き来をしていたので当然よく覚えている。しかし、この時は様子が違った。

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