#53 止まるんじゃねえぞ
"
ジュリザードはフィシャに質問を投げかけた。証人尋問というあたりなのだろう。何を聞かれたのかは良く分からないが、翠が出来ることはフィシャが言う答えに耳を傾けて、分かるところまで理解するほかない。
"
フィシャは怯えながらもジュリザードの質問に短く答えた。
"
"
なるほど、ジュリザードは翠がフィアンシャで何をしていたのかを訊きたいようだ。それに対して、フィシャは"
"Xel la l'! Si
"
裁判長がフィシャの後ろに居る翠に呼びかける。フィシャは自分が邪魔だと思ったのか前後をきょろきょろと見ていた。
何故今リネパーイネ語が話せるか訊いてきたのだろうか。翠がフィアンシャンに居た時にリネパーイネ語のことを訊いていたから、裁判長は翠がリネパーイネ語をちゃんと話せるか心配になったか?いやいや、最初に良く分からない言語の通訳が入ってきたときにちゃんとリネパーイネ語で返したし、その後裁判長自身もリネパーイネ語で質問したではないか。質問の意図が良く分からないが、事実を言うしかない。今まで翠はシャリヤやレシェールたちの意思疎通を図り、認められ、そして相手を認めるために
"
"
翠の答えに傍聴席はまた騒然とした。一瞬何か変な答えをしてしまったのではないかという考えがよぎるがそもそも良く分かっていない質問にどう答えればいいんだという感じだ。自分は正しい答えを言ったんだということを信じるほかない。違和感があったのはジュリザードがやったぞとばかりの表情をしているからであった。
"Xel.
"......
傍聴席が騒ぐ様子は一向にやまない。自分を差し置いて、裁判長やジュリザード、傍聴席の野次馬たちが質問に一喜一憂し、争っている様子を見ると先日の出来事を思い出す。木片に漢字のような文字が彫られ、網目状に区切られた盤の上で遊ぶボードゲーム。自分が見たことがあるはずだった将棋と同じようなものだろうと思いきや、対戦中のシャリヤとフェリーサが共有しているルールを翠は理解できていなかった。ここもそうだ。裁判なんてイメージ上でいくらでも考えられるが、
(ふっ……まるで
そんな極めて的確な洞察が、この先の解決に役立つとも思えない。裁判長が人を呼んで、数人の民兵じみた人間を呼ばせてきた。来るまでそう時間が掛からなかったからだ。禄でもない洞察に時間を掛けて浸っているうちに事は進行していたということだ。ここでルールを曲解したり、いきなり神に雷で撃たれて超能力を得て危害を加えようとする者の目玉でも
"Alf ceg!"
ジュリザードが大声で指示すると裁判長の横に集っていた民兵たちがぞろぞろと翠の周りに集まってきた。また変な考えに浸っていた内に事が進んでいる。一人が翠の腕をつかんで、力強く乱暴に引っ張った。バランスを崩して倒れてしまう。民兵たちは無理やり腕を持ち上げて、立ち上がらせる。何が起こっているのか確認しようと後ろを見ようとしたところ、銃口が背中に触れていることに気付いた。もはや逃げられる見込みはない。
民兵に連れられて、法廷を追い出されそうになった時、傍聴席側の大きなドアが開いた。
"Harmae
"
ヒンゲンファール、聞いたことがあるその名と共に見覚えのある顔が現れた。背から差し込む強い光は、翠を捕らえた民兵たちを想起させたが、ヒンゲンファールのその姿は危害ではなく救いのように見えた。
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