#155 シネ イタㇰ、パテㇰ イタㇰ
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残りは9形態素だ。確実に消化していっている気がする。今の所、三行目まで大体理解出来ている。「同胞たちよ、武器を持て」「今、青い旗を掲げよ」「同胞たちよ、それを恐れるな」というところまでだ。
シャリヤは、"luarta"から矢印を引いて、その先に"
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シャリヤはまだ難しい表情でいた。ペン先で"da"の二文字をたたいている。
歌詞なのだから調子付けに単語が使われることもあるだろうが、国歌にそんなのを入れるのだろうか。異世界の言語なのだから、どこまでが許されるのか分らないし、ネイティブが「意味がない」と言っているのだからそこまで重要なことではないのだろう。しかし、なにか意味があってその単語がそこにあるのだったら、その意味が知りたくなる。
ただ、"fqa es luarta elmo da."という四行目で"da"を無視しても「これはとても喜ばしい闘いだ」という風に不自然でないように読むことも出来る。とりあえずここでは"da"の意味はおいておこう。
シャリヤは次の単語である"ladircco"をペン先で指した。
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翠のそれが日本で、シャリヤはユエスレオネだとすると"ladircco"は「出生国、祖国」を指すのだろう。"verxen"は「開放された」のような意味らしい。これで五行目を読むと、"snerien ladirccosti! verxen nyrtatasti!"は「喜べ祖国よ、開放された庭よ!」となる。後の方の「解放された庭」が何なのかよく分からないが、少し解釈を間違えているのかもしれない。
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シャリヤは真面目な顔で言っていたが、今度はこちらが恥ずかしくなってしまった。分かりやすくするために例を身近にしてくれるのは助かるが、ことごとく誰かが恥ずかしくなることを言ってくれる。お互いを信用できている裏返しでもあるんだろうか。
多分、"klantez"は「偉い」だとか「偉人な」という感じのことを指すのだろう。
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シャリヤは辞書を再度ぺらぺらとめくって"siburl"が書かれた語釈をよく読んでいたが、彼女自身よくわからない様子だった。
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そう言いながらシャリヤは辞書を閉じる。こればかりは本当にわからないらしい。まあ、ネイティブにも説明できないことはいくらでもあるはずだ。「えへ顔ダブルピース」とか、ジェスチャーを使わずに、日本語初級者の外国人に対して簡単に分かりやすく言葉で説明するのは混迷を極めるだろう。そんな単語を聞いてくる日本語初級者の存在は、それはそれで謎だが。
先程シャリヤが言いかけた語釈から解釈するなら、「終点」とか「目的地」とかいう意味になりそうだ。しかし、その程度の言葉なのであればわざわざ難しく悩む必要もない。なのであれば、少し違う意味を含むのだろう。
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どうやら、単語の語尾に付いてた"-stan"はこの調子だと定性を表すらしい。"la lexe'd"に似ているというと、既出の情報やなにか特定のものを指す場合に付けるのだろう。英語の"the"、ドイツ語の"der, die, das"のような定冠詞がリパライン語では単語に後置されるらしい。スウェーデン語にも名詞の語尾にくっつく後置冠詞というものがあるのでそのようなものなのだろう。
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シャリヤは翠のその言葉を聞いて、不機嫌そうにぷくーっと頬を膨らませた。腕を組んで流し目でこちらを見てくる。怒った姿も可愛いが、一体何に怒っているのだろう。
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さほど怒っていない様子だが、変な怒られ方をしたような気がする。というか、それが当然の反応なのかもしれないが。
彼らにとってアイデンティティとなる自分たちの言語が他の言語の名前を冠されてしまうならそれほど危機感を抱くことはないだろう。リパライン語を英語とさして変わらないだとか、リパーシェ文字がキリル文字のパクリだとかそういうことを彼らに言って気分がいい反応をするはずがない。それは自分たちの誇り高い言語に対して地位を認めず、侮辱しているのと同等だからだ。
固有の文字を持たないアイヌ語などの少数言語も、そのせいで地位を認められず、文化性を否定され、言語としての価値を貶められる。翠は悪意を持って言ったわけではないが、借り物であることを、似ていることを独立した言語に対する非難の材料に使う人間もいる。そのような人間だとは思われたくなかった。
シャリヤは翠の謝罪を聞くとそれほど怒ってないかのように振る舞ったが、今回ばかりは少し反省しようと思った。他人の固有の言語を貶すほど言語に無頓着な人間ではないのだから。
なにはともあれ、これで六・七行目も理解できるようになった。"Sysnulustan es klantez co'd axelixfantil."は「今日は偉大なあなたの建国の時だ」という感じで、"Lecu text bli'erchavil faller siburl'd snenik."は「目的の日の中から幸運の時を選ぼう」となるが、意味が上手く取れず直訳っぽさが否めない。
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シャリヤがそう言って、残りの単語を説明しようとしたところでチャイムが鳴った。彼女もチャイムを聞くようにふと天井に目を向けた。昼食と昼休みの時間を示すチャイムだった。
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国歌の歌詞の勉強は最後の一行を残してあっさりと終わってしまった。それにしても、大分多くの単語を新しく得た気がする。頭がパンクしてそろそろ限界だったので中断するのに丁度よいタイミングだった。
シャリヤは手元に持ってきた国歌の本を本棚に戻し、翠はテーブルに置いた辞書やらノートを片付けて二人は共に図書館を後にした。
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