#156 大嘘


 食堂は大量の生徒で溢れていた。時間が時間だから、学校中から昼食を取りに食堂に集まっているのだろう。シャリヤと翠はプレートに乗った食事を持って、席を探していた。


"Xalijastiシャリヤ, harmue lecuどこに miss perne座ろうか?"

"Fgir esあそこが pernefeal……."


 シャリヤが指さした先にはいくつかの空席があった。よく分からないが"pernefealペーネフェアル"というのは「空席がある」という意味なのだろう。"perne"が「座る」という意味なのだから、"-feal"は「空いた」などを表す接尾辞なのだろう。

 シャリヤと共にその空席に向かう。テーブルにプレートを置いて、座ろうとしたところ、見覚えのある人影が視界に入った。烏の濡れ羽色の長い黒髪、みどりなす長髪の先が歩く度に揺れている。オブシディアンブラックの瞳がこちらを捉えた。


"Kali'ahostiカリアホさん, Salaruaこんにちは!"

"annyar......"


 翠の親しみを込めた挨拶にカリアホは困惑したように何かを呟いていた。何かを気にして、上手く話せないといった様子だった。リパライン語を話すのが恥ずかしいのだろうか。カリアホとは何回か一緒に居たから、翠と話すこと自体が恥ずかしいということは無いのだろうと思うが。


"Co es vynut大丈夫? Liaxu co君は上手く tesyl lot lkurfリパライン語を lineparine話せているよ."

"...... nace, xijごめんなさい."


 カリアホは何か耐えきれない様子で額を押さえた。謝るやいなや、翠を避けるようにして顔を背けて逃げるようにして去っていった。いきなりの態度の変わりように驚いてしまった。自分は彼女に嫌われてしまったのだろうか。何か変なことを言わなかったかと言ったことを自分の中で繰り返す。別に変なことを言ったわけじゃないはず、じゃあ何故。

 どうしてそんな態度をとるのか気になって、本能的に後を追おうと体が向かう。しかし、誰かが自分の左腕を掴んだために足は止まってしまった。掴まれた左腕の方に目を向けると、雪のように白い肌の手が自分の左腕を掴んでいた。


"Cenesti, Lecu miss celes彼女のことは eso ci'st panqa'ctすこし一人に fal panqa'd liestuしてあげよう."

"Harmy?どうして"


 シャリヤは座ったまま翠の左腕を強く掴んだままだった。翠が右手を重ねると、掴む手は緩んだ。するするとシャリヤの手は離れてゆく。


"Ci lkurf彼女はごめんなさい <nace>って言ったのよ. Malつまり, selene nivあなたと ci lkurf今は co'tj fal no話したくないのよ ja."

"Harmyそれにしてもなぜ?"


 今度の"harmy"は一度目とは反対に低く発音した。

 文脈から考えて、多分-'tjは「~と共に」という意味を表す共格だ。シャリヤが言うように自分と話したくないのであれば、別にそれはそれで構わない。でも、今まで普通に話していたというのにいきなり話さなくなるのはよく分からない。理由が知りたくなるのも当然だろう。


"...... Mi qune nivそれは知らない la lex pelxけれど liaxu ci彼女は metist…… letix pikij ol et体調が悪かったりしたのかも? Edixa ci彼女はしていた angvirl diunarl."

"Firlexなるほど,"


 シャリヤの言う通り、額を抑えていたのは体調が悪かったからでそれ以外に他意はないのかもしれない。耐えきれなかったように見えたのも、困惑していたのも体調不良の時に親しい友人に会ってしまったからと考えると理解できる。リパライン語がある程度話せるようになったとはいえ、彼女も体調が悪いだとか長々と説明できるほど語彙力が溜まっているわけではないんだろう。体調が悪いとなおさら外国語を喋るのに頭が回らなくなりそうなものだ。ところで自分が今まで体調が悪くなっていないのは奇跡的な気がする。


「いただきます」


 手を合わせて、食事を前にして言う。この異世界に来てからも多分欠かしたことのない挨拶は、未だに異様に見えるようで周りからの生徒から不思議そうに見られる。シャリヤはいつものことと考えていたのか、あまり気にしないで食べ始めた。食堂で出される食事はレトラの食堂で出されるものより少し薄味に感じた。


"Lirs, kali'aho adカリアホさんと panqa'd larta molもう一人 fal fgir'dあの時 liestu malは居たけど sysnul io今日は ci mol彼女は居ない niv?"

"Edixa kynte先生が言ってた lkurfけど. Ci es sietalin今日は休み fal sysnulだって."


 シャリヤは緊張が途切れたかのようにため息を付いた。


"Sysnul es今日は vynut良い snenik日ね. jol fafsirl voles nivない."

"Hmふむ"


 インリニアのことに関して、気にしていたらしい。もし同席していたら先日のように再び口論になるのだろうか。あの時はシャリヤが真面目に怒ることなんてめったにないし、見たこと無かったから驚いた。ただ二度と見たいものではなかった。休んだ理由はよく分からないが普通に考えて、体調不良だろう。カリアホも体調を崩し、インリニアもそれで休んでいるのだとすればこの時期に流行るインフルエンザのようなものがあるのかもしれない。


 そんなことを考えながら、昼食の時間は刻々と過ぎていった。シャリヤと他愛もない話をしながら、食べ終わって教室に戻るまで一緒に居たわけだが、何が起きたのかいきなり掲示されたのは今日の午後は完全に授業が無くなるという話であった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る