#199 恨めしい言葉
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前方に立ちイライラした様子の職員が書類を机に叩きつけて言う。一人はラネーメ人っぽいフェリーサに似た職員、もう一人はリパラオネ人っぽい銀髪の職員、もう一人は黒髪だがどっちとも似つかないような顔つきをしている職員だった。PMCFは前々から民族のるつぼと聞いていたが、職員の配属まで徹底しているとは思っていなかった。
そのうちの一人、恐らくリナエスト人であろう職員の舐め回すような視線が私――スカースナ・ハルトシェアフィス・エレーナの顔を通過した。職員は言葉こそはっきりと、堅苦しくも礼儀正しく聞こえるが隠しきれない訛りのようなものがリパライン語の母語話者でないことを何よりもはっきりと表していた。
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調子外れの語法が出る度に彼らへの信用度が減っていく。まるで路地裏にでも居そうなリパライン語が上手く話せない裏商人のような印象を与える。そんなことを考えていると目の前でヒンゲンファールが立ち上がっていた。彼女は怪訝さと心配を織り交ぜたような表情で職員たちを睨みつけていた。後ろに座るシャリヤが驚いた様子でびくりと震えていた。
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いきなり片言になったリパライン語で吹き出しそうになるが堪える。良く考えれば全く笑うべき状況じゃない。大人たちと離れるだなんて安定した生活と全くかけ離れたものだ。レトラに来る前までは確かにシャリヤと二人だけで助け合いながら生活していたにしろ。それは革命派の町に配給制度があったからこそだ。噂で聞いていた
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ヒンゲンファールは全身から力が抜けるようにして椅子に座り込む。レシェールとミュロニユも面倒なことに何も分らないここで住居を探さなければならないようだ。ミュロニユはずっと仏頂面だったが、レシェールの表情はどんどん険しくなっていった。一番可哀想なのはフェリーサだ。レシェールとフェリーサの関係の詳しいところは知らないが、あれだけ仲が良くて別々で居ることなんてほぼ無いところを見ていると、私とシャリヤが引き離されるくらいに辛いことは分かっている。表情からも伝わってくることだった。
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更に不快さを高めるような警告だった。言っていること自体も不快だったが、もっとも言っている職員がずっと紙を読んでいる様子だったのも気に入らなかった。真後ろに座る翠は言っている言葉が分かっていないのか、ヴェフィス文字でも読んでいるような顔になっていた。
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レシェールが何処ともなくぼそっと言った。最近は"pemecepelukupp"と呼ばれる東島通商語は私たちにとっては"culp"または"culp lkurftless"と呼ばれてきた。この"culp"は彼らが自らの言葉のことを"culup lukup"と呼んでいたのが由来で、リパライン語の"
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どことなく発したはずの言葉が拾われて、レシェールはため息を付きながらも頷いていた。
職員たちがレシェールたちを別室へと連れて行くまで時間は掛からなかった。別れの言葉を言う暇もなく引き離されていく彼らを私たちは見つめることしか出来なかった。レシェールは出ていく直前に振り返って私たちを見渡した。それはすぐにまた会えるという無言の意思表示に見えた。フェリーサは今までに見せたことのない苦しさに満ちた表情で、シャリヤは心配に満ちた表情で、翠は何も分かっていない混乱に満ちた表情で大人たちが部屋を出ていくのを見送った。
私自身がどんな表情をしていたのかは、分からなかった。
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