#36 ドゥーシェ!ドゥーシェ!ドゥーシェ!
急に現れたレシェールの目的はよくわからなかったが身なりが以前のそれとは全く別であった。
ビニール製らしきブーツに、茶色のオーバーオールを着ている。ダサいと言ってはあれだが汚れに対しては完全装備であるとは言えよう。手には鋤というか、スコップのようなものを持っているし、完全にアグリカルチャー仕様の格好だ。一体何しに来たのだろうか。
"
シャリヤがレシェールの来訪を確認すると、"salarua"と言ったのちにそう言った。
それはそうと、格語尾が分かったから大体文章の構造が分かってくるようになってきた。「ミス」は一人称"
詳細な意味が分からなくても文章構造が分かるようになれば更に[お察しください]能力が向上する。
ところで、"carl"ってなんなんだろう。というか「サールをドゥーシェンしなければならない」ってルー語みたいだな……。
"
フェリーサが立ち上がり、元気よくそう言い放って部屋から出て行く。シャリヤとレシェールはそれを見て何とも思っていない様子であったが、翠としては文脈が共有できておらず何が何だかよく分からない状況であった。
フェリーサが隣の部屋でまたやらかしているのか、がちゃがちゃと大音量の雑音が鳴っている。レシェールはフェリーサが行ったほうを眺めながら唖然とした様子だったが、特に止めに行く様子もなかった。
(まあ、止められないだろうなあ……。)
フェリーサが走って戻ってくる足音が聞こえる。
よく見ると、レシェールと同じ服装と手にスコップを携えていた。えっへんという感じで胸を張ってレシェールの後ろに立っている。
(無い胸を張るってか……。)
何故これだけのことにあれだけの雑音が鳴るのか、不思議でしょうがない。
あれだけのおてんば娘を一夜にしてお淑やかなシャリヤのような人間にするには一苦労するだろう。身支度をしてきたフェリーサを一瞥したレシェールもため息をついて、お手上げの様子であった。
"
シャリヤがレシェールに問いかける。
"
"
なるほど、スニューですか……。
スニューってなんだよ!?
レシェールの発言でドゥーシェンする内容が"
"
"
シャリヤは寝床の横にある手帳を取り出してペンで空白のページにササッとギザギザを描く。そこに「人」を意味する"
"
"duxien"の対象が"
"
"
ん?"
たしか、"
"duxienel"は「働く」という意味だと予想した"
"
"
そういって、レシェールは彼が来ているのと同じ感じの服を渡してきた。多分着替えてこいということなんだろう。衆人環境で着替える趣味はないので、シャリヤともどもは別の部屋に行ってもらうことにした。
レシェールは早くしろよとばかり小言をぶつぶつと言っていたが分からないことを聞いていてもしょうがないし、結局外に出て行ってもらった。
着替えをしているうちに一つ気になるものが目に入った。
シャリヤの手帳である。いつも翠に何かを筆談で教えるときに役立っているそれであるが、割と古そうな手帳であった。
(少しくらい中身を見てもいいだろうか。)
多分書いてあることは文字も読めないし、分からないだろうが。一番の知り合いの手帳なんて好奇心がわかないわけもない。
翠は閉じているそれを手に取って、開いた。
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