#168 契約


 逃げるように階段を駆け下りるシャリヤの後を追って、翠はドアを突き飛ばして階段を降り続けていた。シャリヤはこちらを見ようとして振り向いた瞬間、最後の二段を踏み外してこけて踊り場に転がるようにして止まった。痛そうに立ち上がろうとする彼女に翠はすぐに駆け寄った。


"Klie niv来ないで...... Mi es xorln tirja......"

「シャリヤ……」


 彼女は俯いたまま、どんよりとした表情をしていた。まるで彼女が自分の意志でカリアホを殺したのではないというように、自分の手を見て震えていた。


"Mi reto私は殺さない niv. Mi es niv私はこんな xale la lex'iことはしない. La lex本当 es cirla, cenesti!"

"Liaxu mi分かって firlexるよ, xalijastiシャリヤ."


 うつむきながら話すシャリヤの肩を抱き寄せて、落ち着かせようとゆっくりと言う。踊り場の窓は高くて、間近にあるシャリヤの銀髪はその輝きを鈍らせていた。

 シャリヤがこんなところで嘘をつく利益があるとは思えない。最初からそうだったじゃないか、彼女が翠に嘘をついたことなんてない。だが、彼女がレシェールの話を聞いてから失踪してしまって、そこからここに来るまでの間何をしていたのか分らないのが気がかりだった。


"Edixa harmieレシェールの話の co es pesta後で君は lexerl lkurfil何をしていたんだ?"


 翠がゆったりした口調で訊くと、シャリヤは表情を歪めた。


"Cirla io実は mi lkurfカリアホさんに kali'aho'c翠の ny la lexところに pesta来ない snenikestan.でって Klie niv言った cene'ccelx selene……時に mi mol私は cen'tj翠と一緒に fal le loler居たかった liestuから. Paでも, edixaそれで la lex酷い目に leus issydujあったわ. Edicy ydicelカリアホさんが fal senostil居なくなった mels nivって聞いて molo怖くなっ kali'aho'stちゃったの. Cun la lexだから, edixa mi私はその場を tydiest去ったの...... mi tydiest去っていって....... tydiestそれで......"

"Xalijastiシャリヤ?"


 何回も同じ単語を繰り返し、声が小さくなっていくのが不思議で声を掛けたが、シャリヤはそれを聞くと瘧にかかったかのように体を震わせた。何かを怖がって、それで泣きそうになりながらも言葉を紡いでいた。それも自分に言い聞かせるかのように。


"Edixa mi私は...... gentuan……した......? Cene niv mi私は yst kenis……できない...... Harmie miなんで私 qune nivあの後のことを eso pesta知らない la lex? "


 はっとして、シャリヤは顔を上げてこちらを見てきた。


"Naceごめんなさい, naceごめんなさい cenesti. Mi私は...... Mi私は......"


 抱き寄せたシャリヤの体の暖かさ、涙で潤んだ瞳、震えて彼女が何かに怖がっているのを見過ごすことは出来なかった。ユミリアやガルタが殺された現状、じきに警察などが来てシャリヤがカリアホを殺したことは公にされる。警察とレイユアフ、政府関係者から自分たちは追われることになるだろう。彼女は自分の過去を思い出せなくて混乱しているだけでなくて、そういった未来も抱えて混乱しているのだろう。

 震えている彼女を落ち着かせる方法はあるのだろうか。無論自分が彼女の隣に居続けると誓ったのは変わらない。だから、それをまた伝えたかった。自分の言葉の稚拙さを悔やむのはいつもの自分だ。しかし今の自分は違う。言える言葉でシャリヤを勇気づけることが出来るはずだ。それが、どれだけベタな言葉であっても。

 言葉は文法や単語だけじゃない。使う人の気持や文脈があってこそ人の言葉と言えるのだから。


"Co es君は ales.xalijaアレス・シャリヤ zu mi lirfいつ larta zu miまでも lkurf mels守ると sesnudo言った俺の pesta no好きな人 fasta no. Mi sesnud何処に居ても co fal fhasfaいつまでも fasta fhasfa俺は君を守るよ. Celes sesnudo君を俺に co'it mi'st守らせて fal no adくれ. Co's mi'i君が俺を lirf xale愛しているように lirf mi's俺も君を愛して co'iいるんだ."

"Cenesti......"


 シャリヤは翠を見上げながら、赤面していた。しかし、緊張した体のこわばりは解けていた。涙目のまま無言で、胸にしがみついてくる。しばらくそうして落ち着いたのか、こちらに顔を向けた。


"No io ny nun答えて, cenesti. Co mol mi'tjこれからも一緒に fasta no at居てくれる?"


 抱き寄せたシャリヤとの顔の距離はとても近かった。息遣いが聞こえる距離で、シャリヤはゆっくりと目を瞑っていた。気づいたのはレシェールに呼ばれることがわかった前夜と同じ問いだということ。だから、雰囲気に飲まれることなく答えようと思っていた。彼女の唇に優しく唇を重ねる。一瞬だけの口づけだったが、唇を離してからもシャリヤはその一瞬を味わうように目を瞑っていた。ゆっくりとまぶたを開くと、翠の返答に満足そうにため息をついた。


 シャリヤはどうやら足をくじいて、歩くのが難しいようだった。彼女の膝と肩に手を当てて、お姫様抱っこのような形でゆっくりと階段を降りていくことになった。彼女自身この運ばれ方は少し恥ずかしいと思ったのか、ずっと顔を赤面させていた。こんな状況でも、そんな彼女はとても可愛いと思えた。

 下階まで行ってからはダッシュで見つかりそうもない場所に行こうと思っていたが、そんなところ見覚えがある人影が見えた。血だらけの服のカリアホに似た肌色の男と煤けた銀髪ツーサイドアップのオッドアイの女だった。


"Cen ad翠とシャリヤ xalijastiじゃないか,"


 ガルタとユミリアは不思議な様子でこちらを見ていた。なぜかは知らないが、彼らは死ななかったらしい。ジャック・バウアーか何かだろうか。でたらめな人間は異世界に来るまでもなくハリウッドで完結してほしいものだ。


"Edicy hameカリアホは coss moliupi'aどうしたんだ kali'aho, cossasti君たち?"


 ユミリアが冷静そうな顔でこちらを見ている。冷徹な目はイェスカのそれを思い出した。彼女も自分とシャリヤの仲を引き裂こうとするのであれば、敵である。


 お姫様抱っこのシャリヤをしっかりと持ち直して、彼らから逃げるようにその場から去った。結局の所二人は追いかけてこなかったから良かったがその後が問題であった。学校から出ようとする門は全て制服の人間に囲まれていた。見覚えのある制服はイェスカを追いかけていた政府関係者の制服と同じだ。警察か何かだろう。

 ユミリアは出ようとした時点で翠とシャリヤを留め置くことができる。そうすればゲームオーバーだ。捕まってシャリヤと離ればなれになるだろうし、その結末は最悪すぎる。彼女を守るといったばかりなのに出オチとはありえない。


(どうする?銃も小銃も屋上に置いてきた……強行突破は難しい。)


 周りを見ているとエンジンが掛かったままになっているバスが停まっていた。門の近く、確かに翠もシャリヤもバスはいつもはここで乗って下校していた。爆破が起こったことによって、生徒と教員らが避難すると共に放棄されたのだろう。

 バスに乗り込んで、シャリヤを席に座らせる。運転席に座るとさすがの門の制服たちもこちらに気づいたようで懐から拳銃を取り出していた。


「飛ばすぞ、しっかり捕まってろ!」


 非現実感とシャリヤを救い出すという使命に高ぶる心のせいで日本語で叫んでしまっていた。アクセル踏みっぱなしでゲートへと一直線で加速していく。制服たちは拳銃でこちらを撃ってきたが、ガラスは防弾ガラスのようで割れたり、貫通したりはしなかった。

 そうして、シャリヤと翠を載せたバスは門を破壊して制服たちを吹き飛ばし学校を出発したのであった。

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