#185 リウスニータと感慨
通りはきらびやかな飾りで溢れていた。良く見れば病院に来る前にはなかった露店があった。建物の間に大きな横断幕が現れていた。"
そんなことを考えているうちにシェレウルは少し離れたところで疑問符を頭の横に浮かべて、こちらを見ていた。フード付きの深青色のパーカーのポケットに手を突っ込んで暖かそうだ。
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少し急ぎ足でシェレウルについていく。通りの表の明るいほうを通るのではなく裏道を通るようだった。暗がりだが、近道になるのだろう。
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"
シェレウルは前を見ながら問いていた。ルーリアの食べ物と言われてもどんなものがあるのか知らないうえに、良く考えればシャリヤの誕生日に加えて好きな食べ物も良く分かっていなかった。彼女のことをよく知っているのは自分だと思っていたのにこんな基本的なことすら答えられないとは。
ため息を付くとシェレウルはまた不思議そうな顔をして見てきた。何か言い繕おうと思って手で何かをこねるような動きをしながらシェレウルの方を向いた。
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"
シェレウルが適当に答えると、いきなり周りが明るくなった。気づかないうちに暗い路地から明るい通りに出てきたのだろう。通りの両脇は露店があり、人混みでごった返していた。いつもどおり囲碁の石が散りばめられたような光景で、黒髪と銀髪が入り混じっていた。
シェレウルはそのうちの一つの屋台に近づいて銀髪の店主と一言二言交わすとマグカップを翠の元に持ってきた。
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"
受け取ったマグカップの中には薄いクリーム色の液体だった。屋台から直接持ってきたものだろうから、何か危ないものということはなさそうだ。だが、言えることは出来るだけ多いほうがいい。
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シェレウルはそういってマグカップに口をつけた。
リウスニータといえば、以前イェスカがレトラの住居に来た時にシャリヤに好きなものとして言っていたものだ。そう気付いた瞬間、手元にあるマグカップには複雑な感情を抱かざるを得なかった。
ただ、飲み物自体に罪はない。シェレウルにせっかく貰ったものだし、飲むしか無いだろう。彼は飲まないのかと不思議そうな顔でこちらを見つめている。このままではしょうがないのでイェスカのことは意識から消し去り、リウスニータを飲むことにした。
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恐らく語末の"
リウスニータは辛めだが、牛乳などの風味がそれを抑えているようだった。飲んだ瞬間に全身が熱くなり、肌寒さもある程度取り除かれた気がする。この寒いユエスレオネで好んで飲まれているのも分からなくはなかった。
シェレウルは通りに溢れる人混みを眺めていた。今、平和に祭りで賑わえる様子を見ながら感慨に浸れるのはこれまでユエスレオネで起きた紛争の被害者となってきたからだろう。いくら人に迫害されても、それでも彼は人を助けるために生きている。人混みを眺める目には万人への慈愛の念が込められていた。
そういえば、"
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"<
"
「食べ物を良く感じること」というと、"doisn"の語義は「美味しい」などの意味になるのだろう。
シェレウルにはさっきまでの幻想を見ていたような雰囲気が無くなってしまっていた。申し訳無さはあるが、病院ではシャリヤが待っている。シェレウルもそんな翠の考えを読み取ったのか、頷きながら周りの露店を見渡していた。
今日ばかりは食も寝床の心配は無いだろうとそう思って、残りのリウスニータを一気に飲み干す。体が燃え上がるように熱くなった。シェレウルがそのマグカップを受け取って、元の屋台へと返却すると次の屋台へと足を向けた。翠もシェレウルも待たせている人が居るのは同じだった。
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