#267 最後まで話を聞かせるんだ


「落ち着きましたか?」


 そう話しかけたのは銀髪蒼眼、スーツに身を包んだ少女――レシェール・クラディアであった。その眼差しは終始冷たいものだ。容姿は確かに似ているが、シャリヤは絶対にこんな目つきをしていない。


「状況はまだ飲み込めてない。けど、とりあえずは」


 どれくらい寝ていたのか分からないが、起きてから身体が慣れるまで時間が掛かっていた。頭にも十全に血が巡っていない気がする。俺は冷ややかな目でこちらを監視し続ける少女に視線を向けた。


「インリニアに会わせてくれ」

「構いませんが理由は?」

「彼女に状況説明をしなければ」


 クラディアは少し首を傾げたかと思えば、数秒の無言の後また口を開いた。


「状況説明なら、既に我々がしています」

「……良いから、連れて行ってくれ」


 クラディアは強い語調の言葉を聞いて、それ以上の言葉は不要と感じたのか黙って立ち上がった。


「ついてきてください」


 クラディアの触れる銀髪を追うようにして歩いてゆく。建物は現代的な構造の施設で、とてもではないが紀元前に建てられたとは思えないような構造になっていた。

 歩く度に体の節々は痛むが、そんなことよりもインリニアの容態が気になっていた。心配に沈黙しているとクラディアが振り向かずに話し始めた。


「彼女もあなたと同じくらいの軽傷で済みました」

「それは良かった」

「私達があそこで救っていなければ蒸発してたでしょうね」


 押し付けがましい。ついつい顔をしかめてしまった。

 そんな雰囲気も気にせずクラディアはひたすら歩いてゆく。彼女は一室のドアの前で止まるとノックをしてから、それを開けた。

 真っ白な部屋の中にベッドがぽつんと存在していた。そこに病衣で寝てたのは正真正銘、インファーニア・ド・スキュリオーティエ・インリニアであった。


"Cenesti......"

"Edixa cene俺たちはシャリヤ niv miss celdinを助けることは xalija pelx出来なかったが cene co lap veles君だけは助け celdinoられた. La lex es安心し vynut fal miたよ."

"Edixa fgir'dあの……は tierpe firlex何も分かっちゃ niv als居なかった. Cirla io本当に ni firlexあれがシャリヤの xalija'd……と la jonus翠の…… ad cene'dを分かって duxienerl malいれば la lex xaleあんなことは iulo'i es nivしないんだ. "


 インリニアはやり残したことがあると言いたげな顔になっていた。今にもここから抜け出して、シャリヤを引き戻すことが正しいと確信している。そんな姿を見ていると自分があの時シャルの言葉に反論出来なかった自分の意思の弱さが良くわかる。自己嫌悪に口をつぐんでいると、クラディアがインリニアのベッドの脇にいつの間にか持ってきていた花瓶をおいていた。ささっているアガパンサスの花は彼女の落ち着きをそのまま反映しているかのようだった。クラディアは感情を感じさせない無表情でこちらを向いた。


「日本語で話さないのですか?」

「……何が言いたい」

「いえ、翔太は私達と専ら日本語で話すので不思議だなと思いまして」


 インリニアは二人の会話している様子を不思議そうに見つめていた。彼女が日本語を話せるはずがない。異世界で育ち、その異世界の言葉ヴェフィス語を母語として、またその異世界の別の言葉リパライン語を第二言語として習得してきたからだ。そこに日本語を覚えて話す余地は無い。

 クラディアはこちらを覗き込むようにして見てきた。依然、無表情だから何を考えているのかさっぱり分からない。


「良かったら、通訳して差し上げましょうか?」

「いや、リパライン語で話す」


 クラディアはまた少し首を傾げ、仕草だけは不思議そうにしていた。翔太とはずっと日本語で話していたらしいクラディアとは感覚が全く違う。


「日本語で話せたら、それは楽だけどインリニア自身じゃない。彼らとその言葉は不可分だからだ。だから、俺はリパライン語で話したい」

「……崇高な理念ですね」


 花瓶を離れて、クラディアはドアに手を掛けた。彼女はもはやその話に興味は無いように見えた。


「何かあれば、また呼び出しますのでごゆっくり」


 それだけ言うとクラディアは部屋から出ていってしまった。やっと良く分からない人間たちが出ていって、インリニアは安心した表情になっていた。クラディアは状況の説明をしたと言っていたが、したところで飲み込めないのが関の山だ。


"Xalija esシャリヤは plorul……だ. Deliu ci mol彼女は翠と一緒に cen'tj pelx居るべきなのに edixa letixelstあのわからず屋は fgir'd firlexer's……してしま nivった."

"Cene mi lus彼らの話に werlfurp falよると俺は nisse'st lkurferlウェールフープが使えるらしい. Co firlex esoそれが何か la lexe'st harmie'ct知ってるか?"

"Jaああ, mi corln私は…… firlex知っている. Merえっと, paでも cene niv mi私はそれが lus la lex ja使えないけど."


 インリニアはベッドから立ち上がってこちらに歩いてきた。


"Liaxu co es君はケートニアー kertni'ar jaだったんだ?"

"Luser werlfurpウェールフープの使い手を veles stiesoそういうふうに xale la lex言うのか?"

"Jaそう, Niv luser使えない者は veles stiesoネートニャー «nertniar»って呼ばれる. Mi es私は nertniar jaネートニャーだね."


 「にゃーにゃー」連呼するインリニア、ただ言葉の解説をしているだけ彼女が可愛らしく見えてきた。元々敵だった彼女がこんな状況でも一緒に居て和める存在になれたのだ。


"Inlini'astiインリニア"


 彼女は無言で頷いて応答した。


"Lecu miss ad俺達と彼らで niss miscaon協力して celdin malシャリヤを celes ladirriso夕張から取り xalija'it jurbali'st返そう."

"Mi at tisod私もそう思 xale la lexっていたよ. Selene mi celes奴らに私の elx senosto at言ったことを mi'st lkurf聞いてほしerl nisse'cいからな!"


 インリニアは挑むようなニタリ顔でこちらに手を差し出してきた。そういえば、インリニアはシャルに最後まで反論する前に吹き飛ばされていた。負けず嫌いの彼女のことだから、その復讐も兼ねているのだろう。

 ここまで来れば言葉は不要とみて、俺は差し出された手をガッシリと掴む。こうして、インリニアと俺との間には確固な共同戦線が敷かれることになった。

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