#100 ファイクレオネ
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気づいたときにはもう図書館の前にまで来ていた。日々の運動不足が祟ったのか少し走っただけで息が上がっていてフェリーサに付いていくので精一杯だった。それまでどこを通って来たのかすら良く分からなかった。
腰に手を当てて息を整えている翠に対してフェリーサは全く疲れていない様子だった。走って気分が高まったのか、ぴょんぴょん飛び跳ねていたが、翠の様子を見て心配そうにこちらを伺った。
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こんなフェリーサが図書館でものを教えるとは、あまり想像できなかった。ただ、以前フェリーサに驚かされたのもこの図書館だし、時々フェリーサも本を読みに来るのだろう。
(本当に本を読むような人間に見えないんだけどな。)
翠はレトラの図書館の三階を常用していた。そこにはリネパーイネ語の詳解辞書があったし、他にも言語学習の資料になりそうなものが多くあったからだ。二階には一回入ったきりでそれ以降全く行ってないし、一階は本が少なく、学習施設じみていたので用がある時以外は深く奥に行ったことはなかった。
フェリーサが嬉々として翠を連れて行ったのは一階の奥の方であった。照明の明るみが直接当たらない場所で、木製の壁や床、書庫の暗がりはまるで森の中での木の陰になっている地面のようだった。
フェリーサはそのうちの一つの書庫、"
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「ふーん」と曖昧な相槌を返す。
正直"stydyl"も"faikleone"も"unde"も詳細義を理解していないので本質的なことは何一つ理解していない。"faikleone"が"yuesleone"に似ていることからの類推で、国や地理について教えてくれるのかもしれないとは思ったが、それも推測にすぎない。
フェリーサは本を開いた。最初の方にある目次を細い指がなぞる。そして、目的のページを見つけたところで開く。
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(ふむ……。)
フェリーサが開いたページにある図を指で囲うように指して言う。背もたれに寄っかかって、興味深く図を見ているこちらを驕った態度で見ている。物理的には自分より背が低いはずなのに、上から見下ろされているような気がしてきた。まあ、フェリーサのことだから子供らしいといえばそれで終わりなのだが。
多分、この全体が"faikleone"で、その書き方からして地図なのだろう。等高線などがないような簡単な地図で陸地は緑色で、海は水色で色が塗られている。地形のことを言えば地球の地図とは大きく違った地図だ。異世界なのだからそれはそうなのだが、いざ見てみると違和感しか感じない。
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地図中央から少し東よりの入り江の上に指が置かれる。フェリーサは地図の10cmほど上を指で指していた。違和感を感じて、その直下に地図の紙に触れるように指を置いてみた。
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フェリーサは首を振って否定した。それに加えて少し悲しそうに眉を下げた。
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また面倒な話が始まっているような気がした。地上で"
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"......
完全にフェリーサは意気が削がれていた。明るく咲いているひまわりが一瞬で萎れて光を失うように感じた。それほどに"xemen vykot"は酷い存在なのだろう。翠も多分実体を見るべきではないし、見せるフェリーサのほうにも精神的苦痛を与えることになるだろう。
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フェリーサがぼそっと小声でつぶやくのが聞こえた。
辞書で書いてあった通り、リパラオネ教徒とその異教徒との戦いは長らく続いていると考えてもおかしくない。その戦いの中で多くの人が死んでいく間にここユエスレオネに逃げてきたという構図が見えてくる。
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空気がすっかり悪くなってしまったから、話題を変えようとフェリーサのことについて訊いてみることにした。シャリヤやエレーナはフェリーサを"
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