#129 これまでの復習Ⅰ
テスト用紙を眺めると、右上の方に"
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F.1sti
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(なるほど、これくらいなら解けるな)
どうやら、穴埋め問題が多いようだ。クラスのレベル分けに使われるテストだから最初の方でこそ簡単なものなのだろう。
これまでのリパライン語学習の復習といこう。
"名詞+es+名詞"という文は、リパライン語で等式文を表す文章だ。等式文を作る"es"のような動詞のことは、コピュラ動詞というらしい。英語では"is" "am" "are"、ドイツ語では"ist" "bin" "bist"というように主語によって 単語がぜんぜん違うが、リパライン語はどうやら主語が"
というわけで、自分がなにかであることを表明している文章を穴埋めするうえで、挨拶である"
翠は続いて次の問題へと目を向けた。
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F.2sti
"
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これはなかなか文化的で難しい問題だ。アレフィスがリパラオネ教徒の信仰の対象であるということは、非常に文化的な話題だと思う。カリアホのようなリパライン語に全く触れ合っていないような人間では解けそうもない。それとも、そんなことはここでは常識だったりするのだろうか?
そういえばと思って、横にいるカリアホに目を向ける。テストを前にして手も足も出ないという様子であった。手を膝の上について、ぼーっと用紙を眺めている。その表情は悲しそうな虚しそうな、なんとも言えない表情だった。
もしかしたら彼女は文字すら読めないのかもしれない。助けてやりたいが、カンニング扱いにされればそれこそもっと面倒なことになる。胸が痛むが、何もしてやることは出来ない。
問題に戻ろう。
前回は"
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F.3sti
"
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長い文章でいくつか意味が取れない単語もあったが、なんとか大意は取れた。今回は文章に助動詞のようなものを挿入する時、どれを挿入すべきかという問題のようだ。挿入される文章は「リパライン語非母語話者向けクラスに来る生徒は、リパライン語をこのクラスで話す」というように訳せる。助動詞の挿入する場所から、助動詞が係る動詞は"
非母語話者向けクラスに来るような人々は、多分リパライン語を習得しようとしているのだから"
サクサクと問題が解けると非常に清々しい気持ちになるものだ。だが、問題はまだまだ続いている。まだ、周りからは鉛筆が紙上を走る音が聞こえている。カリアホはというと、全く分らないテストを前にうとうとと眠そうな顔をしていた。どうせ一番下のレベルに向かうことになるなら、寝てしまえばいいのに。彼女のリパライン語力に一番合うのはそういったクラスのはずだ。だが、何か心の中では彼女に対する心配が渦巻いていた。全くわからないのに生活のために言語を習得する必要がある――という困難な状況に置かれている彼女は過去の自分にそっくりだ。困惑し、立ち向かって、それでもなお多くの人に助けられて自分はここまできた。彼女は……そういう身寄りが居るのだろうか? シャリヤやエレーナ、フェリーサのようなリパライン語を話す親切な仲間が周りに居ないのならば、自分が助けてやるのが一番じゃないだろうか? 過去が似ている自分こそ彼女の気持ちを出来るだけ理解できるんじゃないだろうか?
(まあ、とりあえず今は問題を解くことに集中しよう。)
頭を振って、続く問題に意識を切り替える。カリアホのことはあとで面倒を見てやればいい。彼女のことだけでなく、自分のリパライン語力にも心配なところがある。人助けも良いが、自分の身を削ってまで他人を助けようとすれば一緒に滅びるだけだ。
翠はペンを持ち直して、テスト用紙に向き直った。
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