#180 改宗提案


 地図で見ればすぐ近くにあるものと思っていた病院も実際に歩いてみれば少し遠さを感じた。翠はといえばシャリヤにずっと肩を貸しているし、シャリヤも慣れない歩き方で歩いているからどちらも疲れてしまった。というわけで、道中にあったベンチに二人で座って休んでいるところだった。相変わらず殺風景な街に冷たい風が時折吹き込み、ベンチも冷たくシャリヤも体を震わせていた。


"Ers xilnar……ね......"


 また冷たい風が吹き込んできた。シャリヤはたまらなかったようで、こちらに肩を寄せてきた。頭を翠の肩に乗せると、落ち着いたようにため息を付いた。シャリヤの息が首元に掛かって、少しくすぐったかったが他に温まれる方法もない。もっと近くに居たいと思い、シャリヤを自分の胸に抱き寄せた。彼女も拒むこともなく暖かさを求めるようにして受け入れてくれた。


"Dalle tisoderl考えること, cen es翠は kysen."


 心地よさそうに目を瞑って頬ずりしてくる。周りに人が居ないのをいいことに甘えられるだけ甘えているらしい。無理も無いことだ。もはや、シャリヤと翠を守れるのはレトラのバリケードでもレシェールとかの大人たちでもない。自分たちの動きに自分たちの運命が掛かっている。そんな緊張した状態が続いていて、しかも怪我までしてシャリヤも参ってしまっているのだろう。出来ることならこのままシャリヤとゆっくり時を過ごしたい。だが、ユミリアが死んだとしても自分たちが犯罪者として追いかけられる事実は変わるまい。


"Merねえ, Cenesti."


 シャリヤが胸の前でつぶやく。顔をつけたままなので表情は見えない。しかし、声色から分かるのは彼女が落ち着いた状態だということだった。言葉で答える代わりにその綺麗な銀髪を撫でた。


"Co ny lirf niv felxもし嫌だと思わないなら deliu co isリパラオネ tvasnker教徒に lipalaoneなるべきよ."

"E is tvarsnkerリパラオネ lipalaone教徒になる?"


 いきなり現実的な話が飛び込んできて驚いた。シャリヤにリパラオネ教の布教をされているということになるだろうが、それにしても何故今頃その話を持ち出したのか全く分からなかった。シャリヤは翠の胸に顔を押し付けたまま話を続けた。


"Cun, edixa cen isもし翠が tvasnker lipalaoneリパラオネ教徒に felxなったら cene wioll miss私達は食べ…… delusolacergenon knloanれるから."

"Ar, firlexあぁ、なるほど."


 "delusolacergenonデルゾラセーゲノン"の意味が分からなかったが、シャリヤが言いたいことは伝わった気がする。つまり、リパラオネ教徒になればフィアンシャで食事をもらえるから、食の問題が無くなるということを言っているのだろう。

 しかし、リパラオネ教について何も知らない自分が食べ物を得たいがために入信するなんてことがあっていいのだろうか?


"Mercえっと...... la lex xaleそのような iulo lerことから mi is俺が tvasnkerリパラオネ lipalaone教徒になって mal la lex esそれで vynut良いの?"


 尋ねるとシャリヤは少し離れてきょとんとした表情をしていた。何が悪いのか分からないといった様子で言葉を探していた。


"La lex es私は悪い niv ny vynutことじゃ. Mi tisodないと la lex思う. Cunだって, fi'anxa'stフィアンシャが celdino at助けてくれること…… es tonir'd birleは神様の……だから."

"Birleビーレ...... es harmieって何?"

"Hnnうーん...... birle esビーレは vynut icveerl良い貰い物ね."


 どうやら"tonir'd神の birleビーレ"という単語はこの文脈で行くと「神の恵み」とでも訳せそうだろうか。

 シャリヤの解釈でいうと、そういった理由でリパラオネ教徒になったとして、フィアンシャの助けを求めることも神の恵みということになるのだろう。ただ、自分にはリパラオネ教の信徒になるという実感が湧かなかった。神頼みやお守り程度でしか神のことを意識したことがない自分が真摯に彼らの神の存在と向き合っているリパラオネ教徒たちと共存できるのだろうか。もしこの異世界から日本に帰れる時が来たら、その信仰を持ち続けられるのだろうか。そうでなければ、それまでに助けてくれた人のことを裏切ることになる。だが、打算的に言えばシャリヤの言う通り、食のために改宗するのが今最短の方法だ。仕事をするにもすぐ見つかるわけではないだろう。

 考え込んでいると左手に温かさを感じた。シャリヤが右手を翠の左手に当ててこちらを見つめていた。


"Tisod nivそんなふうに xale la lex考えないで. Lecu miss yst教徒になる lkurf mels isoかどうかは tvasnk fasta病院に tydiestil行ってから kyrdentixti考えましょう."


 優しく触れる手の温もりが次々と浮かんでくる思考を途切れさせた。心配した様子で蒼い瞳がこちらを見つめていた。良く考えれば"Co ny lirf niv felxもし嫌だと思わないなら"だなんてわざわざ言うということは、彼女にとっても改宗の話をするは気が引けたのだろう。

 そうだ、自分はシャリヤを守りながら、この異世界で生き延びなければならない。そのためにはまずシャリヤの足を治さなければならない。自分が改宗するかどうかは今ではなくその後で考えればいい話だった。

 シャリヤに肩を貸しながら二人でベンチから立ち上がる。自由な片手で地図を開き、場所を確認すると病院に向けて歩き始めた。相変わらず彼女は足を痛そうにしていたが、それでも弱音を一つも言わなかった。

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