#201 学生寮とDzepar-
職員に連れられるまま学校の中へと入ってゆく。校舎のような様々な建物を通り過ぎた後、生徒らしき制服を来た一人が手を上げて挨拶しているのが見えた。こちらを興味津々に目を輝かせながら見ている。職員はだるそうに手を上げて答え、その建物の方へと向かった。
"
職員は自分たちに向けてアイル語で話しかけていた。結局の所、一つも分らない翠達はフェリーサの顔を伺うことしか出来なかった。自分に視線が集まっていることに気づいたフェリーサはハッとして、こちらに向き直った。
"
"
フェリーサのリパライン語による説明が聞こえていたのか、生徒の方もリパライン語のような調子で話しかけてきた。手を差し出して、握手を待っているようだった。シャリヤやエレーナがどうすれば良いのかと戸惑っているところで、彼は彼女らの手を自分からとって握手をしていた。握手と言うより、手を掴んで振り回すような感じだったが。
フェリーサ、翠、シャリヤ、エレーナと一人ずつ手を握るととても嬉しそうに微笑んだ。いきなり手を掴まれたシャリヤとエレーナは互いに見合わせて少し引いているようだった。フェリーサはそんな様子もなくむしろ彼の歓迎に好意的なように見えた。文化圏によって客の出迎え方は全く異なる。インド先輩はインドに住んでいた経験があるが、何の前触れもなくいきなり客が来る時があって驚いたという。恐らくタミル人が客をもてなすのが好きだから、別に迷惑とも思われないのだろうというようなことを言っていたが真偽は良く分からない。つまるところ、シャリヤとエレーナのおもてなし文化圏とフェリーサのおもてなし文化圏が違うからこそ、その歓迎のされ方に違和感を持ったり持たなかったりしているのだろう。
(自分にとっては特に違和感を持つこともなかったわけだが。)
生徒の顔は細目で顔に凹凸が少ない――あえて言うなら平たい顔族と言えるような――そんな顔立ちだ。PMCFの町中には確かにそんな顔立ちの人間が多く見られた。こうなるとタカン人ではないのかと何回を言われるのも分からないでも無い。
そんな風な出迎えが終わると、生徒とともに早速ガラス扉の建物の中へと入っていった。
"
学生寮というような雰囲気で扉がいくつも並んでいた。そのうちの一つを開けて部屋の中を見せてくれた。本棚と二段ベッド、机と照明。シャワーやトイレも完備されているようで、設備はわりかし綺麗だった。自分たちが難民としてこの国に来たことを忘れるほどに設備は良かった。
生徒の言っていた"
"Lirs,
そんなことを考えていると案内しているのを怪訝そうに見ていたエレーナが学生を指差して言った。言い方はきついが、確かにこの学生の立ち位置も気になる。
"
"
エレーナは静かに瞑目し、納得した様子だった。しかし、翠にはもっと理解をまとめる時間が必要だった。
彼が自称した"
そうなると、"dzeparvirxergal"は「寮長」を指す単語だということが分かる。
"
"
"
"
翠が言葉について考えているうちに話は進んでいた。寮長が言うにどうやらエレーナとフェリーサは上の階、翠とシャリヤは地上階の一室づつということになるらしい。理由は良く分からないがエレーナは不機嫌そうにため息を付いていた。
"
寮長は不機嫌そうなエレーナと翠に紙を一枚渡した。一応リパーシェとして読めるがバランスが悪い上、全体的に文字列が右上がりになっていた。寮長が自分たち新入りの生徒を思いやって学校のことを少しでも理解できるようにと手書きで書いてくれたのだろう。
"
寮長はそう言い残すと、笑顔のまま手を振って寮の外へと出ていってしまった。翠はぼーっとそれを見ていたが、何やら強い視線を感じた。そちらに目を向けるとエレーナが恨めしそうな目でこちらを睨んでいた。
"
"Voles
"
翠の質問も聞かずにエレーナは階段の方に踵を向けた。不機嫌そうなままフェリーサの片手を持って半ば引きずるようにして去っていった。やっと落ち着いたと思ってシャリヤを見やると彼女は赤面していた。
"
"
シャリヤは顔を赤くしたまま部屋へと入っていった。
方向を表す格"-'l"が付いていた"snutok"は「部屋」を意味するはずで、冷静にそう言えるということは体調が悪いわけでもないのだろう――そんなことを考えながらシャリヤの後に付いて部屋へと入っていった。
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