#212 助けるなよ


 異国の周りの様子を眺めながら食事をしていると何かと楽しいものだ、とインド先輩が言っていたことがある。当然、食自体も異国のものであるわけだが、食事の場というのは文化が現れる。食文化だけでなく、人々の憩い方やその表情だったり、店と客の関係だったりである。翠も周りを眺めながら、出された食事を楽しんでいた。

 フェリーサは満腹になったようで机と人差し指でイカサマで取ってきた札の角を押さえて立てて、薬指で回して暇を持て余していた。二、三回札が倒れるとフェリーサはいきなり立ち上がった。翠の方に札を見せつけるように出してくる。申を横に倒して、冠を載せたような文字が書かれていた。


"Lirs, lecu fqa leusこれを使って私達で miss icve arte'elお金を稼ごうよ. Malそしたら, wioll cene miss語学学校に tydiest行ける lkurftlessesnifようになるよ!"

"Paでも, mi qune俺はそのルール niv la lex知らないし......"

"Wioll mi kanti教えるよ!"


 フェリーサは身を乗り出して、生気に満ちた顔を見せてきた。

 賭博師になって金を稼ぐ?そんなことをやって失敗すれば、どうなるか分かったものではない。だが、アイル語を学ぶためには最低でも自分らが読める教材を見繕ったり、リパライン語で教えてくれる教室を探さねばならない。アイル語が分からなければ勉強だけでなく、PMCFの人々のことも、この国のことも、何も理解できず社会に投げ出される。

 そうならないためにも多少はアウトローなやり方でもお金を稼いでアイル語を学ぶべきなのだろうか。


"Cene niv mi es私は……は velfezaino'i出来ないわ."


 シャリヤはそう言うとグラスに入った水を一口飲んだ。複雑そうな表情をフェリーサに向けている。"jardzankattaヤージャンカッタ"が「イカサマ」だったわけだが、"velfezainoヴェルフェツァイノ"は「賭博」ということだろうか。


"Mi es tvasnker私はリパラオネ lipalaone教徒 gelx cene niv es賭け事は出来 velfezaino'iないわ."

"Cirla本当? Malじゃあ, wioll cen'tj lap翠と…… mi es賭け事をする velfezaino'i jaことにするよ. "


 フェリーサは真向かいに居たはずがいつの間にか背後に移動していた。翠の首元に手を回して後ろから抱きついてくる。シャリヤ以外にこんなことをされたことはあまりない。だからか、だんだん顔に血が上ってくる。フェリーサの方から甘い匂いが漂ってきた。焦ってシャリヤに助けを求めようと目を向けると、そこには黒いオーラが周囲の空気を淀ませるようなそんな雰囲気のシャリヤが口元をひく付かせて微笑んでいた。次の瞬間、彼女の手元にある木製の匙は為す術もなくへし折れた。


(また、嫉妬かよ!?)


 そんな風に思った瞬間、テーブルを叩きつける大きな音が聞こえた。食事処の喧騒は一気に静寂に包まれ、フェリーサは絡みつくのを止めた。叩きつけたのはシャリヤではない。背後の席の方であった。


"Edixa co esお前、イカサマ jardzankatta'iしただろ ai'rerstiアイル人め!"


 銀髪の男がPMCF人っぽい平たい顔で、髪の毛を一本結びにした男の胸ぐらを掴んでいる。そのテーブルには先程のカードゲームと同じカードで賭けをやっていたのか、小銭とカードが散らばっていた。点数を表す棒は男の元には一つも無かった。一緒に賭けていたのであろう周りの男達は拙いリパライン語で"mili待て"と言って、男を宥めようとするが全く聞く気配もなかった。

 シャリヤはその様子を見ていたが、ややあって怯えた表情で視線をそらした。


(ユエスレオネの人間なのか?)


 シャリヤの見方から直感的にそう感じた。しかも、男の目の色が蒼で、髪の色が白銀だ。PMCFに来てからというもの、ここで見る人間たちは黒髪で黒目の人間ばかりでユエスレオネにそういう人間が居ないと言うわけではなかったが、シャリヤのような容姿の人間は彼らからしてみれば外国人であろう。だが、翠にしてみればどちらかというと同胞だった。これまでユエスレオネ人にどれほど助けてもらったか数えきれない。彼を助けることくらいしてもいいだろう。

 テーブルから立ち上がり、彼の後ろにまで近づく。


"Pusnist待てよ!"


 銀髪の男、一本結びの男、他の賭けていた男たち、シャリヤ、フェリーサ、その他諸々の視線が翠に集まる。銀髪の男は一本結びの男を地面に投げ捨てるように突き飛ばして、こちらを向いた。その暴力的な視線と威圧感が翠の体を本能から震わせる。だが、ここまで来たら引くことは出来なかった。


"Edixa co nilirs賭けで負けて fal velfezaino malそんな風になる e'i es xale fqaなんてな. Hahはっ, la lex xale lartaそんな人間が is ny nilirser勝者になる. La lex esなんてそれこそ infavenorti ja珍しいだろうな!"

"Harmieなんだと?"


 翠の安い挑発に乗った男は今度は翠の胸ぐらを掴んだ。乱暴な手付きで揺さぶられるが、ここまでは想定範囲内だ。袖の中に事前に入れておいた一枚の札を取り出して見せつける。札には廿の下に八が書かれたような文字が書かれていた。ゲーム中にフェリーサが役を作る時に何回も使っていた札、恐らくワイルドカードであろう札だった。そしてその札はフェリーサのイカサマが発覚したときのように袖から零すように取り出して、男に見せつけていた。


"Miss es俺らは jardzankatta'iあいつらに sisse'l fal sysnul今日イカサマしてやった. Dosnud fal sysnul今日は帰れ. Wioll miss ny nilirsお前の分を勝って co'd arte'el ja mal取り戻したら icve arte'el fal明日お前に finibaxli返してやる."


 銀髪の男は酒臭い顔を翠から離して、気味悪そうな顔で翠を見つめた。辺りは完全に静まり返っていた。


"Celdin niv助けるなよ. Fqa es dalleここは…… yuesleoneユエスレオネだ mag......"


 続きが言えなくなった銀髪の男は頭を振ってこの場を去っていった。渋々去っていく彼をPMCF人たちは嘲笑ったり、指さして何かを言っていた。シャリヤは翠を見て安堵の表情を浮かべると共に彼の背中に何か気の毒なものを感じたような表情になっていた。フェリーサも先程の意気は何処へやら、料理に集まってくるハエを、追い払う気力も無さそうなつまらなさそうな顔で見ていた。

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