#262 クローマ
夜、雨雲の過ぎ去った空は快晴だった。古代の星空は周りに光が無いだけはっきりと見える。周りを見るのに頼りになるのは月の光だけ。人工的な光のない世界は自分を異様な気分にさせる。だが、星々を見ているだけで不思議に安心にすることが出来た。
またも眠れず屋上に座りながら空を見上げていた。ぼやっとしているうちに一日は颯爽と過ぎ去っていく。そんな一日一日を振り返りながら、今の生活も悪くないなと一瞬思ってしまった。インリニアが居れば、言葉はある程度通じる。言葉が完全に分からないのは今に始まったことではない。それにシャリヤが居れば文化もある程度分かる。この古代でも生きていけるのだろうか、その問いに"
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恐る恐るという感じの声が聞こえた。目をやるとそこには蒼目の少女が階段脇からこちらに視線を向けている。
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薄い青色のチュニックにスカーフを合わせている。月の光に照らされた銀髪はきらめき、そよ風に揺れている。こちらに近づいてきて、彼女は俺の横に座った。
前日のインリニアの件で妬いて、それで来たのだろうか。それにしては雰囲気が硬い。彼女は唇を一文字に結んで、なかなか喋り出さなかった。
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"......
そういえば、助動詞は文中に入る時"eo lex"(もしくはその省略形elx)を入れるんじゃなかったのだろうか。いや、そんな疑問よりも重要なことがある。
シャリヤは目を細めて俯いていた。それは泣き出さないように頑張って踏みとどまっているようにも見える。謝りたかったのは詩をどこで学んだのか、誰に何故学んだのかという質問に答えられなかったことだろうか。
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"
「シャリヤ……」
俯いた顔はどのような表情なのか。月の光を遮る髪の中は伺い知れなかった。
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ゆっくりと語りだした言葉に静かに頷く。"
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"......
言葉が途切れて、静寂が訪れる。
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"......
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一気に言い切ったシャリヤの声色は震えていた。
ところどころ分からない単語はあるものの、大筋はつかめる。"
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"
"
シャリヤの声は段々と嗚咽混じりになっていた。顔こそ見えないが、きっと泣いているのだろう。話す言葉も何を言っているのか殆ど理解できない程になっていた。それほど彼女は自分に話す時に配慮して、言葉を選んでいたということだ。無論、最初からシャリヤを見放すつもりはない。無いがここまで健気で愛しい人を平気で見捨てられるわけがない。
横に座っているシャリヤの頭を撫でながら、懐から一枚の紙を取り出した。
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Mi'st noil io set g'lirf co fal alsileu, lkurf ja.
Alsersti! Cest niv nateu l'furnkie miss'd melso.
Lkurftless adeu flarska niv cest qa, zelkesti!
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シャリヤの目の前にあるのは先日詩学院にもらった紙だ。それにリパーシェが綴られている。ただの散文ではない。彼女に教えてもらった詩形でなにか一つ書いて、贈ろうと思って作ったものだった。
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"......"
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シャリヤは静かに頷く。既に涙は止まったようで、静かにそのまま眠るかのような息づかいが背中を揺らしていた。
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