五十日目

#263 襲われた町


 身の震えと共に目が覚めた。次に耳に入ってきたのは悲鳴と爆音だった。何が起こっているのか皆目検討が付かない。被っていたシーツを取り去って、すがりつくように窓の外を確認した。あらゆる場所から煙が立っている。禍々しい黒煙が空へと上っていく。少なくとも調理場から出るような煙ではなかった。

 本能的な危機感を感じて部屋を抜け出す。それと同時に爆音と衝撃が建物を揺らした。


(古代だからといって平和とは限らないってか……)


 つくづく自分が不幸に思えてくるが、今はともかくシャリヤとインリニアが無事かどうかを確認しなければならない。

 廊下に飛び出した拍子に誰かにぶつかって床に転ぶ。慌てた様子の相手はインリニアだった。オブシディアンブラックの瞳を瞬かせて、ぶつかった相手が翠だと確認すると胸をなでおろしたかのように安堵のため息をついた。


"Elajanerfen大丈夫か?"

"E... elajanerfen大丈夫. Paでも, no io harmie今何が is stisここで…… fal fqaになっているんだ?"


 どうやらインリニアも事情を飲み込めていないらしい。表情を安心に緩ませたと思いきや、周りを忙しなく見回していた。


"Cenesti!"


 後ろから抱きついてきたのはシャリヤだった。心配そうな顔をしながら腕を掴み続けている。いきなりのことで彼女も動転しているようだ。つまり、この場に居る意思疎通が取れるメンバーで異世界人ですら分からない状況が進行していることになる。


"Metista……, fqa'd iccoこの国は veles cec……されている. Edixa jol yfi'aユフィアはそのために elmelst fua la lex……しようとした."

"Firlexなるほどな, malそれじゃあ deliu miss私達は es harmie'iどうすべきなんだ?"


 シャリヤとインリニアの間で状況認識が進んでゆく。中途半端な言葉の理解からは現状が双方にとって異常事態であることしか解釈できなかった。シャリヤは髪をかき上げながらインリニアに応答した。


"Mecceries……, Lecu miss私達は…… malefikinaへ…… vintetinfala'l……しよう."

"E firlex分かった. Malじゃあ, lecu tydiest行こう."


 何らかの同意が得られたようだが、それが何だったのかは全く理解できなかった。一行はとりあえず建物から出て、周りの様子を伺っていた。インリニアを先頭に、話を理解しているシャリヤの後を追うような形になっているのは非常に情けなかった。

 爆発や悲鳴は先程のような激しさを失っていた。依然、周りでは煙が上がっているものの、町は不気味な静寂に包まれていた。


"Arえっと, Yfi'a elm jaユフィアは戦っているのか?"

"Metista…… jaそうだな."


 インリニアは背で話を聞いていたのか、肯定した。どうやら"metistaメティスタ"というのは、自信がないときに付く単語らしい。「多分」だとか、日本語だとその辺りに相当しそうだ。


"No io ci mol niv今彼女はここに fal fqa pelx居ないけど jol elm他のところで戦おう fal etalとしているのよ. Deliu niv miss私達はそこに tydiest la lexe'l行くべきじゃないわ."

"Jaああ, pa cene nivでもここに居る miss mol fal fqaことも出来ないさ."


 インリニアは答えながら周囲の状況を確認していた。耳をそばだてて、鋭い視線が道の影にめぐらされていた。

 静寂のなかで心のざわめきは段々と収まっていった。緊張は解けないが、頭の中に残る疑問を問う余裕が生まれていた。ユフィアの敵についてはこの時代のことを知らないこともあって理解が及んでいなかったのだ。


"Merえっと, Yfi'a'd zelkユフィアの敵って es harmae誰なんだ? Harmy liaxuなんで彼らは niss elm戦っているんだ?"

"Metista恐らく, Zelkestan es彼女の敵は nuloven ales……のアレスだ. Dzeparzelkestana'd敵の筆頭の ferlk es cafi'a名前はサフィアだ."

"Cafi'astiサフィア.......!"


 シャリヤが驚いた様子で名前を繰り返す。今まで忘れていたものを思い出すかのような反応はさらなる興味を引いた。


"Hame cafi'aサフィアは es jaどんな人なの? Ni at letixその人も国を icco ja持っているんだろ?"


 先導するインリニアはその言葉を聞いて、怪訝そうな顔でこちらに振り向いた。シャリヤと目を合わせると奇妙なものでも見るような顔で頬を掻いた。


"Ci veles彼女はスキュ kranteo cixjリオーティエ教典で larta xale悪魔のような dolum fal人間…… skyli'orti'e'd書かれて xendusiraいるのよ. Ci niejod fua彼女は人を殺すために retovo larta生きている. La lex esそれが ci'st niejodo'd彼女が生きる kante目的なの."

"Ci text esel彼女は殺し e'it fallerのためならば alsel fua何でも retovoやる. Selene niv会いたくは virot ja無いね."


 インリニアもシャリヤも恐る恐るという感じでサフィアという人物を語っていた。彼女たちはスキュリオーティエ教典で読んだイメージが強いのだろう。ユフィアが主人公であるならばその敵であるサフィアが極悪非道に誇張されて書かれているだろうから、どこまでそのイメージが通用するかは分からない。ただ、ユフィアがそこに描かれた人物である以上多分サフィアと彼女が戦っているという事実自体は間違いないだろう。

 そんなことを考えながら、一行は大通りまで出てきた。依然賑やかさを失い、人で賑わっていた市場はもぬけの殻だ。道脇に広がる粗雑なテントの中には人影は見えない。

 そんな様子を見ながら、何か喪失感に襲われた。三人はしばらくその状況を飲み込むことが出来ず、ただ棒立ちになって様子を伺うことしか出来なかった。

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