#5 俺は異世界転生物の主人公だぞ
"Cuturl ol reto fai dexafel dea!"
男の怒号が家の外から聞こえてきた。
黒髪の少女は、シャリヤと翠の頭をジェスチャーで抑えながら、窓の脇から外側を覗いて様子を見ている。依然、銃声と思わしき音と爆発音、悲鳴と怒号が混ざり合って聞こえてきた。
空気がバリバリと振動し、窓がおどろおどろしい音を立てて割れる。走って逃げているのか、それを追いかける兵士の足音なのかわからないが近くを多くの足音が通り、そして、少しして静寂が訪れた。
散発的な銃声と爆発音はいまだ続いている。黒髪の少女は、外を確認しながら、逃げ出す機会をうかがっているようだった。
(ただごとではないな……。)
そう、ただごとではない。
何が起こってるのか、誰が敵で味方なのか分かるはずもない。当然地球なら大体の見当がつきそうなものだが、
地球でこんな目にあえば命を守れるかどうかも、運動経験の少ない翠にとっては疑問なところである。銃弾を受ければ、即死するかもしれないし、異世界で膝に矢を受けたなんてギャグは絶対に通用しないだろう。
そもそも、帰れる保証というものは無いのだが。
だが、彼には変な安心感と自信があった。
つまり、こういうことである。
(そもそも、異世界転生物の世界なんだから主人公である俺が死ぬことはないだろ。)
というわけで、別に何があろうと大丈夫という変な自信があった。黒髪の少女もシャリヤも隠れ怯えているように見えるところで、翠は一人だけその変な自信で胸を張って、事の成り行きを見つめていた。
外が静寂に包まれて、黒髪の少女も外を確認しながら安全を確認していた。どうやら、外に出ても大丈夫なようであったがもちろんこれからどうすればいいかなど理解できていない。とりあえず、黒髪の少女についていくほかなかった。誰が味方で、誰が敵かは自分には分からないが彼女たちにはきっと分かるだろう。
そんなこんなで、家から出て街路に出ようとしていた時であった。
"Jei! mili! Shrlo milion xesniepins ledyd'i!"
後ろから大声で怒鳴られる。黒髪少女もシャリヤもゆっくりとそちらの方を向くとそこには黄土色の制服らしきものに身を包んだ一人の男がこちらに銃を向けていた。
驚いた翠はすぐに両手をあげた。交戦の意志がないことを示すためであった。だが、男は一瞬驚いた顔をした後、怪訝な様子で翠を眺めていた。だか、翠の様子を見て少し経つとイライラしたような顔で激高して、銃を翠に向けた。
"Jei! Xesniepins ledyd! Xesniep xleanertnir'l!"
何を言っているか全然分からないので振り返って、シャリヤに助けを乞うように顔を向けるが、何も答えてくれない。
両手を挙げたまま、男に向き直ると、男は引き金に指を掛け翠に向けた銃を構えなおした。
"
そう男が言い放った瞬間、引き金が引かれた。鈍い銃声と共に銃弾が放たれる。当然銃口は、翠に向けられているので、銃弾は翠に向かって放たれて、即ち至近距離でライフルで銃撃されたのである。
シャリヤも黒髪の少女も唖然としている。撃った方の兵士の男は茫然自失という感じで、銃を構えたまま微動だにしなかった。
「……」
「……」
本当に撃たれたのか、翠も撃たれたと思わしきところを手でさすってみる。触れた指が紅く染まるほどに、血が出ていた。
「―――なんじゃこりゃぁあ!!!」
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