#362 禁じ手
"
教室を出たところで、ニェーチに呼び止められた。
"
"
「え?」と彼女は素っ頓狂な声を出す。
そう、書いたのは「ニェーチの手元には、他人には明かせないようなことが書かれている」ということだった。ヴェアンは得た正しい内容を書いて提出することと言っていた。しかし、彼は「文章から得た内容を」とは一言も言っていないのだ。俺がニェーチに問いかけた時点で「得た内容」は存在する。もし、「それ」が指していたものが「文章の内容」だとごねられても、俺が書いたことは「文章の内容」の「正しい性質」を書いているので問題はない。
――という説明をしたときには、ニェーチは驚きを顔に湛えていた。
"
"
"
ニェーチは完全にその次が継げなくなってしまった。確かに禁じ手かも知れない。だが、今はそんなことよりも文書の内容が重要だった。ニェーチやアルテリスが即座に隠すほどの内容がここにあるかもしれない。課題を越えて、文書を持ち帰り、内容を精査することが必要だった。
"
"
"
ニェーチに背を向け、俺はすぐにアパートへと向かうことにした。
豊雨に車を回してもらうことも考えたが、いきなり電話を掛けて切ったさっきのこともあり、バツが悪くて掛ける気にはなれなかった。しかも、歩きながらであれば考えながら部屋まで戻ることが出来る。豊雨を呼べば、帰りの間に根掘り葉掘り聞かれることだろう。この紙に書いてある情報を彼女に伝えるべきかも分かっていない。そんな状況でべらべらと話してしまうのは単純に危険だ。
(今わかってるのは、MLFFの何かに谷山が関わっているということか)
そりゃ、警備担当者だから接触してきた存在について調べるのは当然だ。それにしても昨日の今日で接触するとは流石手早い男だと思った。気になるのは、それに「~も持っている」という文章が逆説でくっついているところだ。MLFFとの関係を持ちながらも、それに反する何かをしている。そこがポイントな気がする。
そんなことを考えているのいつの間に、目の前にアパートが現れていた。
* * *
デスクにテクストと辞書、ノートとペンを置いたら準備は完了だ。
文章の始まりの文をもう一回見ておこう。
"
意味がわからないのは "
これらは実に文全体の39%を占める。つまり、俺は文全体のうち61%しか分かっていないということになる。前にインド先輩に聞いたことだが、英語を対象にした研究では文章のカバー率が95%~98%程度無いと未知語の推測などが難しいらしい。
試しに、この文章で推測できることを書き出してみよう。
1."
2."
3."
4."
5."
6."
7."
意外と多く出てきた感覚だ。
ただ、こういう統語上の情報を知ってても意味がさっぱりなので、とりあえずは地道に辞書を引いて解読していくしか無い。
俺は卓上の辞書を開いて、語釈を一つ一つ丁寧にノートに書き写した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます