第六部 La tuan

五十二日目

#275 安心しましたよ、先輩!


 意識が戻った、と自覚したということはこれまでは意識を失っていたということだ。意識を失うまで開いていた目蓋は鉛のようになかなか動かない。耳に入ってくる音もなんだか輪郭がぼやけているように聞こえる。


 ……。


 ぼやけていた感覚がだんだんと戻ってくると首から頭が何かの上に乗っていることに気づく。枕のような感覚……いや待て。こんな風な意識の取り戻し方は確か前にもなかっただろうか? そうなれば次に起こることは大体理解できる目蓋をひん剥かれて起こされるということだ

 起きるべきか、心の中で逡巡が生じる。当然、起きなければ現状を確認できないはそれはそうだが、それよりもその先に見える暴力が怖すぎる。次に目蓋をひん剥かれたらトラウマになる自信がある。かといって、永遠に寝たふりをしているわけにもいかない。

 ええい、もうどうにでもなれ!


 目蓋を開くと予想した光景とは違った光景が目の前に映し出されていた。

 女の子だ。女の子に膝枕をされている。インリニアもシャリヤも女の子であることには変わりない。だが、目の前の少女は見た目からすれば、今まで一度も会ったことがない人間だった。肩に垂れる横髪はウェーブが掛かっていて、後ろ髪は少し上の位置でツインテールにしている。奇妙なのはそれまで見たこともない桃色の髪だったということだ。学校にも市内にもそういう人間は居なかったはずだ。

 彼女は蒼い目で心配そうに遠くを見ていた。あるいはそういうこともあるかもしれないと思って尋ねてみた。


"Co es xalija君はシャリヤなのか?"


 脳内がまとまらない状態で出てきた質問はそれだった。

 桃色髪の女の子はこちらを向いて"xatvastiシャトヴァスティ?"とささやくように言うといきなり俺の体を引き起こして、抱きついてきた。


「は? ちょっ……!?」

"Xatvasti……よ, mi'd私の larpi delok……! Coあなた m'jisesn……して, mi at私も feat…… xeot jelo'tj……を思うと共に elx jol jisesn ja……するでしょう!"

"Mi firlex分かった! Mi firlex分かった magから elx shrlo静かに co ircalartして lot isくれ!"


 桃色髪の女の子はきょとんとしながら俺を解放してくれた。果たして、シャリヤはこんなにスキンシップが多かっただろうか? インリニアにしてもいきなり抱きついたりすれば、腹パンを食らって15分くらい地面をのたうち回ることになるように思える。

 では、この娘は一体?


"Co君は...... es niv xalija jaシャリヤじゃないよな?"

"Jaはい, mi'd ferlk es私の名前はシャリヤ niv xalijaではありませんよ, xatvasti……よ. Paでも, harmie何故 co nunそんなことを iulo xale今訊く la lex fal noんですか?"


 桃色髪の女の子は不思議そうに尋ねてきた。

 服はどうやら制服のようで、紺色のワンピースの上からベージュのケープを着ている。ケープを胸のあたりで結ぶリボンがまた可愛らしい。容姿を観察していると桃色髪の女の子が怪訝そうな顔でこちらの視線を気にし始めた。俺は視線を彼女から外して、話を続ける。


"Cun, mi firlex起こっていることが niv no'dよくわか votynoらないんだ."

"Votynosti起こっていること?"

"Fal panqaまず, co君は firlex Infarniaインファーニア・ド de ats Skyliautie・ア・スキュリオーティエ inlinia olインリニアか skarsnaスカースナ・ハルト haltxeafisシェアフィス・エレーナ elernaを知っているか?"

"......? Harmae誰ですか niss esその人達?"


 奇妙だ。これだけ親しく接してくる人間が、相手の身近な人物を一人も知らないなんてことがあるだろうか。

 憶測だけならいくらでも出てくる。

 例えば、世界を超えただけではなく、世界線まで超えてしまっただとか。では、この質問ならどうだろう。


"Malそれじゃあ, liaxu no ioターフ・ヴィール・ tarf virlユミリアは jumili'a niejod生きている?"

"Merえっと, liaxu ci niejod彼女は生きてます."


 どうやら予想は的中していたようだ。この世界はそれまで俺とシャリヤたちが居た世界とは別だ。ユミリアは死なず、今も生きている。ではシャリヤはここに居るのだろうか? 急に心配になってきた。もし、ここがシャリヤが居ない世界で他の世界に行く道が残されていないのだとすれば最悪だ。

 俺が勝手に不安になる一方で、奇妙な質問の連続に彼女は困ったような顔をしていた。


"Lirs……, celes plasio私に……を mi'st na'i plax説明させてください."


 桃色髪の女の子はそういって俺の手を引いた。一体何が起こったのか、説明してくれるらしい。手を引かれてる間、周りの様子を観察していた。同年齢の生徒が集まっているところを見ると、ここは学園のようだ。女の子が着ている制服じみた服も勘案すればよりそれらしく思える。

 彼女は建物の中の廊下のベンチに俺を座らせると、息を整えてから喋り始めた。


"Xatva……は mi'tj des……と……で fal ininolaxiailo歩いていました. Malそしたら, knonen……な polto…… lerから fhasfa誰かが soloj……を la xeji mal……して la lexそれが rodestel…… xatva'c……に. Edixa xatvaそれ…… pifh fai……は la lex……した. Co penあなたは今 xelerl目覚めて mal is no今に至ります."

"Hmmうーん......"


 経緯を説明されているのは分かるが、語彙力が無さ過ぎてほぼ分からない。今までリパライン語で生きてこれたのが不思議になるレベルだ。しかし、類推できるところを見て理解していこう。

 "desデス"は恐らく"desal"の派生元の動詞だろう。多分「歩く、踏む」を表している。あと、この娘はさっきから俺に"xatvaシャトヴァ"と呼びかけている。これは自分のことだと考えていいだろう。 そうなってくると、誰かが俺に何かをして昏睡して、目覚めて今に至るということになる。


 うむ、何も分からん。というか、八ヶ崎翔太とクラディアとインリニアは何処に行ったのだろう。


 桃色髪の少女を前にして、俺は不安しか抱けなかった。

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