#115 督戦
―ファールリューディア、ユエスレオネ革命軍前哨地
シャリヤの目の前には地獄が広がっていた。
翠の演説は確かに政府派の最後の前線勢力の戦意を削ぐのには充分であった。しかしながら、現状は違った。督戦隊によって前進を余儀なくされていた。翠の演説に対して賛成している人々もいたのに、その意思は跡形もなく消え去っていた。
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上官たちが兵士たちの後ろを通りながら、呼び掛ける。翠の演説が終わってから、政府軍が前進を始め、革命軍は目の前に広がる政府軍の兵士たちに対して機関銃掃射を浴びせかけようとしていた。しかし、そこらかしこで弾詰まりが起きて使い物にならなかったため、軽機関銃であるLPF-82 アルザッツァや歩兵小銃であるPCF-99 シェルトアンギルを使って応戦しようとしていた。
シャリヤも自分に支給されているシェルトアンギルの弾倉を入れ替え、槓桿を引いた。
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近くの革命軍兵士の話し声が聞こえた。片方の兵士は政府軍に銃口を向けて、向かってくる兵士を射殺しながら不思議そうにつぶやいた。シャリヤも気になって見下ろす形になっている陣地の窓から政府軍の兵士達を眺めた。確かに列に紛れている督戦隊は少ないものだった。これだけの勢力で軍隊の反乱を抑えたのだろうとすると何か違和感を感じるものがあった。
迫ってくる軍人たちの顔は生気に満ちていなかった。まるで何かに操られているような、そんな雰囲気を感じたがその中の何人かは挑むような顔をしてこちらをにらみつけている人間も居た。督戦隊とそれくらいしか生気に満ちている感じがしなかったのは何か異常なものを感じた。
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話していた革命軍兵士の片方が異変を指し示す。シャリヤも身を乗り出してその指し示した先を注意深く眺めた。
前進していく敵軍のうちの一人が督戦隊の兵士に銃を向けたのが見えた。督戦の兵士を撃ち殺して、革命軍側に亡命するつもりなのだろうか。前進する隊列は一部崩れるが、督戦の兵士も前に進み続ける生気のない兵士たちもそれを気にせず前に進み続けていた。亡命しようとした兵士は後ずさりながら、督戦兵と距離を取っていたがついに銃剣を突きつけようと督戦兵に向かって走り出した。
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革命軍兵士の声は期待がこもっていた。前進が止まり、兵士たちが亡命してくれればこちらの勝利は明白になるだろう。
しかし、亡命しようとした兵士は督戦兵より20Uftaほど前で針金が刺さったかのように直立して動かなくなった。次の瞬間、その兵士の首や腕、足があらぬ方向に曲がる。両手で持っていた銃は宙を舞って地面に落ち、その体はそのまま力なく倒れてしまった。督戦兵はその無残な死骸の頭に拳銃で終末を与え、踏みつけて先に進んでいった。政府軍の生気ない兵士たちも同じように何も気にせず、踏みつけながら前に進んでいた。
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シャリヤの考えを聞いて、横に居た兵士は上官に報告しようと持ち場を離れて奥に行った。もし、督戦兵がケートニアーで編成されているなら、全てのつじつまが合う。
政府軍の兵士たちが大抵ネートニアーで編成されているとして、ケートニアーの督戦兵はウェールフープを利用して彼らを操っていたと考えることができる。一部の人間が射殺されたり、反乱できたのは彼ら自身がケートニアーであるからだ。ウェールフープ学の本で少し読んだことだが、ケートニアーは自身の身体がイールドとして働いている場合がある。彼ら兵士の一部はイールドが働いて、督戦兵のウェールフープが利かなかったのだろう。
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陣地の端側に居る見張り兵と機関銃兵が上官の呼びかけに呼応してガスマスクを装着し、督戦兵を捜索する。シャリヤも大急ぎで軍服の腰に備え付けられているガスマスクを取り出して装着し督戦兵を見つけようとする。
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進軍する敵の右翼側で一人、督戦兵が倒れるがすぐに立ち上がり先へ進む。頭を撃ち抜かれない限り、これくらいの傷では死なないのがケートニアーの特徴だ。対ケートニアー戦闘になるなど、一Sine-ftaたりとも聞いていなかった前線指揮も含め大混乱に陥っていた。そんなこんなで、気化型フェンテルヴェンスが掛る。フェンテルヴェンスはイールドの一種でウェールフープの効力を遮断する効力を持っていた。
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上官の呼掛けにより、全員が目を敵に向ける。
戦闘は不可避であった。
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