#14 ઞ


"Salarua!おはよう Cenesti!"


 ううぅ……あと、五分……いやできれば永遠に寝ていたい……。


"Stukiek cen's!"

「うわわっ!?」


 部屋にシャリヤが入って睨みつけられていた。時間は……この部屋に時計が無いので良く分からない。日は上がっているらしいが、ついつい疲れすぎてぐっすり寝てしまっていた。

 なにか変な夢を見ていたような気がしなくもないが、夢のことなんかはこの際どうでもいい。今日も順調に上手く行き始めた異世界ライフを満喫するために異世界語を習得しなければ。将来、チートを使いこなし、ハーレムを作り上げるためにはこの世界では異世界語を完全習得しなければ無理らしく見えるからだ。


"Salarua.おはよう"

"あ、え……っと、Salaruaおはよう......"


 うむ、挨拶は上々だ。

 シャリヤはシャワーを指さして、一応部屋を出て行った。多分、シャワーに入れということなんだろう。さっさとシャワーを浴びて着替えに着替える。部屋で待ってると、シャリヤが部屋をノックをしてきた。


"Edixa coあなた famialys?"

"Ja, ja!あ、行くよ!"


 何を言ってるかよくわからないのは語彙力の低さで恒例なのだが、大体文脈で翠を呼んでることは分かる。答えなければとは思うのだが、咄嗟の反応は適当になってしまいがちだ。本当に語彙力は重要だ、人と面と向かって外国語で話しながら、「あっ、ちょっと待って今辞書引くから」なんてみっともなさ過ぎないか。まあ、日本語・異世界語辞書が存在しない今、翠ができることは大体沈黙か、何かジェスチャーをするくらいだ。

 急いでドアを開けると、当然シャリヤが立っていた。シャリヤの手には、小さい冊子が握られていた。ペンとノートらしき冊子もついている。


"Lersse fai fqaこれ."


(ん……?これを何しろって……?)


 冊子を渡され戸惑う、シャリヤを見ていると合わせた手を開くジェスチャーをした。多分、冊子を開けということなんだろうが……。

冊子を開いてペラペラとめくってみる。辞書に書いてあった文字と同じ文字と共に絵が描いてある。子供に文字を教えるための冊子のようなものに見えるが、語彙力の無い翠にとってはありがたい。ただ、ただ……。


(文字が読めないなあ……。)


 これはまずい。

 どうにかして教師のシャリヤにこの文字の読み方を教えて貰わなければならない。一体どうしよう。


"Fqa es......?これは……?"


 文字を指さしながら、文字の読み方を教えてもらおうとする。

 冊子に書いてある五つの文字。その上にリンゴらしき絵が描いてある。いや、異世界にリンゴがあるのかどうかは知らないが、今は難しいことは考えずにリンゴということにしておこう。

 文字は大体どれが母音で、どれが子音なのかは大体分かるし、多分アルファベットであることは分かる。だが、それだけでは音声が何なのかは分からない。

 文字はѱnɥઞпのようなயnɥઞпのような形をしている。言葉では言い表しづらいづらいが、二文字目はnっぽく、三文字目はyっぽい。何とも言い表しづらい一文字目はお椀に縦線を引いたようなもので、四文字目はCを左右反転したようなものと縦線をつなげた形だ。最後の文字は口の下の線を取り除いたような形だ。


"Der, ir,デー、イー jer, xenonen ur, ker、イェー、シェノネン ウー、ケー"


 ふむふむ?それぞれの文字の名前なんだろか。


"Dijyk.林檎"


 ディユク、まあこのѱのようなயのような字は/d/を表しているらしい。同じようにn /i/, ɥ /j/, ઞ /u/, п /k/と当てられる。次の鹿っぽい絵の下には、さっきあったઞから始まるઞѱɔю /ud--/というような文字列が見えた。


"Fqa es?これは?"

"ydun.鹿"


 ユドゥン……あれ?

 ઞは/u/であったはずなのに、この単語ではユという発音になっている。良く分からず、その次のページにある文字列をみるとそこにもюઞuઞ /nu-u/の文字があった。本の絵が描かれている。指を指して示し、教えてもらう。


"......?"

"nyey."


 ニェユ……。

 うーん、このઞという文字が非常に曲者のように見えてきた。


 廊下で文字解読に没頭していると、シャリヤも疲れてきたのか、翠の手を引っ張って別の場所に連れて行かれることになった。

 女の子と手を繋いだことなんて一度もなかった。頬の紅潮が抑えきれない、きっとシャリヤは俺を自分のお気に入りの場所とかに連れて行くに違いない。

なぜなら……。


(俺は異世界転生ものの主人公だからだ……ッ!)

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