#182 問診票


 シャリヤは座ったまますっかり寝てしまっていた。目を瞑って静かに息をしている。怪我している上にこの世界のことを良く分かっていない人間の手助けまでしなければならない彼女の苦労はよく分かる。だからこそ、今彼女を起こすことは出来なかった。

 愛らしい彼女の寝顔を見ていると奥の方から先程の青年がクリップボードに紙を挟みながらこちらまでやってきた。寝ているシャリヤを見ると人差し指と中指だけを伸ばしてそれを唇の上に載せた。もしかしてこのジェスチャーは静かにしてもらうときのものなのだろうか?異世界なのだからジェスチャーも違って当然なのだろうが、解釈を謝ると大変なことになりそうだ。良かれと思ってやったジェスチャーが思わぬ結末を招きかねない。"baneart"のようなことは二度とごめんである。

 青年は首を傾げて、答えを待っていた。翠は一応その問いかけに頷いた。


"Nace fua milioおまちどうさま. Pesta sleil診察の前に, elx shrloこれを krante fqa書いて欲しい plaxんだ."

"Hnnふむ......"


 相変わらず白衣の下半分が血まみれの青年が聞こえるかぎりぎりの小声で囁く。差し出してきたのは、紙が挟まれたクリップボードであった。紙にはいくつかの項目が表に区切られて書かれていた。これは……問診票というやつではないだろうか?


"Derok fal elx書けたら edixa kranteil呼んで plax."


 青年は人懐っこい笑顔で手を振りながら、また奥の方へと行ってしまった。呼び止める暇も無く目の前から消えてしまったが、問診票なんて自分に書けるのだろうか。医科のリパライン語表現すら満足に理解できなかったのに。


"Xalijaス……あっ……」


 隣りにいるシャリヤに助けを求めようと視線を向ける。彼女は気持ちよく眠っている。問診票が書けないだけで、疲れた彼女を起こす訳にはいかない。ここは自分だけでどうにかしなければならない。

 手元にリパライン語詳解辞書はない。今まで使ってきた手帳も毎日の出来事を書こうと考えていた日記さえも、全てをレトラに置いてきた。辞書にも人にも頼ることが出来なければ自分だけの力で全てを解決する他ない。

 問診票の全体を見渡すと上と下の太字の枠に分かれていて、上側には


"Ferlk名前 es - __________________."

"Co'dあなたの lynedelyrlen snosti es - Annia男性 olまたは Julupia女性 ol etまたはその他."

"lexxisnen es - ____'d routu'd ____'d stujesne'd ____'d snenik."

"sietival es - __________________."

"co letix vilfcanあなたは……を持っていますか? - Jaはい olまたは Nivいいえ."

"Ecartladan es - __________________."

"Mels lkurftless言語に関してlusは使う - __________________."


と項目が続いている。


 いくつかの単語が分からないが名前や性別を書くような欄があるのを見ると受診者の個人情報を書く欄らしい。下側の太字の枠にはリストでまとめられている欄や体の図が書かれている欄などが続いている。様々な質問に対して提示された単語の中から選び、書くということらしい。母語話者にとってはただの問診票も、自分にとっては言語のテストだった。


"Selene co辞書が icve levipご所望かい?"

「うわっ!?…... X, xaceあ、ありがとうございます......."


 さっき部屋の奥の方に行ったはずの青年がいつの間にか自分の隣に座っていた。神出鬼没とはこのことを言うのだろう。血まみれだった白衣はいつの間にか清潔な真っ白のものに変わっていた。

 いきなり出てきて驚いてしまったが、青年はというと何故驚かれたのか分らない様子だった。そのうえ、翠はこの青年とは一言しか喋っていないのに何故リパライン語が分らないと分かったのだろうか。この異世界の医者は全員テレパシー能力者だったりするのだろうか?


"Cene mi ekce俺はリパライン語が firlex少し lineparine melxしか分らないから deliu mi辞書を引かない melfert levipと分らないんです. Paでも, harmieなんで co firlex la lexそのことが分かったんですか?"

"Jexi'ert cunだって, co nun mels君はリパライン語に lineparine fastaついて僕たちの病院の misse'd kyrdentixti前で訊いていたじゃないか. Ci'd plasio at彼女の説明……は elx edixa es……だった fyrfsyken melxわけだし jol si彼は dektanfylon firlex nivリパライン語 lineparineが分らない. Edixa mi tisodそう思っ xale la lexたんだ."


 どうやらシャリヤとの会話は聞こえていたらしい。まあ、ドアを開けたのは彼だし、聞こえていたのも当然だろう。それにしても分かっていたなら何故リパライン語が分からなさそうな自分に問診票を渡したのだろうか。


"Selene co彼女を celes peno起こしたく xelerl ci'c無いんだろ ja? Mag, mi僕は icveaines kranteo co'c書くことを君に pa la lex ekceでもそれは少し es snietij難しかった ly jarn……."


 青年がジェスチャーで訊いてきたのは本当に彼女を眠ったままにすべきかということだったらしい。だからこそ、彼はシャリヤを起こさないように問診票を翠に渡して自分は着替えに行ってしまったのだろう。戻ってきて、翠が悩んでいるところを見て辞書を持ってきてくれたらしい。

 現に彼の手元には蒼い表紙の分厚い本があった。


"Xaceありがとうございます malそれでは, kanti kranteel書き方を教えて plax下さい."


 青年は翠の言葉に頷いて、上の太枠の一番上の"ferlk"から始まる欄を指差した。

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